【滝夜叉姫】解説しろ!KAGURAオタ 〈実況解説編〉
神楽についての基本知識と『滝夜叉姫』の前情報はコチラ→【前半】
後半から読んでも全然大丈夫です。
後半は舞を見ながら解説していきます。(話の流れは各神楽団によって多少違います。)
それでは後半・実況解説編、スタート!!
プロローグ
冒頭、今にも消えてしまいそうな女性が一人、歩いてきます。
このきれいなお姫様が五月姫=滝夜叉姫です。
天慶の乱で父・平将門を討たれた五月姫は、父の仇である平貞盛・藤原秀郷を討たんがため都に出ますが、その甲斐なく機会に恵まれません。何としても悲願を果たさねばと復讐に燃える五月姫は、丑の刻参りで有名な貴船の社へと赴きます。
ここらへんの身の上が最初の五月姫の口上=セリフで語られます。「そもそもこの所に進み出でたる者は…」以降に注目。神楽団によっては分かりやすく平将門が討たれるシーン→五月姫登場って舞うところもあるかな。
女の憎念=貴船=丑の刻参りは一つのセットみたいなもので、頭に蝋燭つけた女の人が杉の木に五寸釘打ってカーン、カーン…っていうの見たことないですか?まさにアレです。こわいよー。*1
五月姫はこの貴船の社に七日七晩の願を掛け、ついに最終日・7日目の夜を迎えます。真っ暗な闇の中、明かりは手元を照らす灯だけ。満願成就まであと一歩と、社まで急いで向かう姫の喜びに逸る気持ちと、寂しく切ない気持ちとが交錯して、うーん哀しい。
無事に社へと辿り着いた姫は、貴船の神に祈りを捧げます。
そして段々、段々と姫の様子がおかしくなっていき…とうとう鬼になってしまいます。
この姫から鬼女へ変わるところが見所ポイント。広島は本当に上手なんだよなぁ。
満願成就の末に神通自在の妖術を手に入れた姫は、これより名を滝夜叉姫と改めて、仲間の軍勢を集めるべく下総国・猿島=今の茨城県へと急ぎ立ち帰ります。
序盤(登場人物)
ところ変わって、二人のイケメンが登場。
「幣」というティッシュのついたはたきっぽいものを持ってる方が偉い人・大宅中将光圀(おおやのちゅうじょうみつくに)、お付きの人は山城さんが多いけど色々だなー。光圀はただの武将ではなく陰陽道に精通したスゴ腕のハイブリッド武人。
妖術を使い朝廷転覆を謀る大軍勢を成敗せよ、との勅命を下された二人は、滝夜叉姫のアジト・相馬の城を目指し、一路下総国へと下って行きます。
囃子が鬼囃子に変わると、怪しすぎてガラの悪すぎる二人が登場。お゛りゃあ゛!!
この二人は夜叉丸・蜘蛛丸と言う滝夜叉姫の一の子分。都より討伐隊が出たとの知らせを受けた二人はダッシュで主の元へと帰ります。あ゛いさぁあ!!!!!
彼らは野盗とかそういう感じなので、鬼でもないし人でもない、姫の手下で補佐でもあるっていう本当に難しい役どころなんですよね…。この微妙なニュアンスをどう匂わせるかで本演目の格が決まる、と思ってる!!い゛ぃよいしょぉお゛!!!!!!
姫の御前へと到着した二人は火急の知らせを伝えます。「何条何事にて候」*2は「どした~?」って意味。
この知らせを聞いた姫は驚くどころか「返り討ちにしてやるわ。」と息巻きます。貴船の神から授かった妖術に敵うものなどない、父の仇を討つほんの始まりにすぎないと。
中将光圀を打ち滅ぼすため、姫は手下たちに合戦の準備をせよと命じます。
ほどなくして、決戦の場・相馬の城へと辿り着いた光圀一行は、滝夜叉姫の館へと攻め込みます。
攻め込む前に踊ってんなよ、早く攻め込めよって思うかもしれませんが、ここが割と重要ポイントで、「絶対勝てますように!!」という神様への祈願と、ラスボス戦への道のりと高まりを表現しています。神楽たる所以なので省いてはダメ。
バトルシーン
そして、ラスボス・滝夜叉姫と手下がその姿を現します。
神楽では某死神漫画とおなじで戦う前に「名乗り」を上げなければなりません。(そういや師匠は北広島出身だったような…?)「いざ勝負、勝~負!!」は「レディー、ファイッ!」ってことなんですけど、石見神楽では「いざや立ち合い、勝負を決せん!!」って言う。小まめ知識。
前哨戦・夜叉丸&蜘蛛丸戦は神楽の基本形「2対2」の戦い。
薙刀vs刀の変則的な勝負から、刀vs刀のガチバトルになるとこありますよね。イイ!!神楽って難しそうに見えるんですが、左に回って右に帰るの繰り返しなので意外に単純です。難しいけどね。
途中、全員の衣装が突然バッ!!てなるのは「肩切り」と呼ばれる芸北・石見神楽特有の衣装を着てるから。この仕組みは、まず肩の紐を外し、グルグル回るときの遠心力で裏地を広げています。
何年か前の紅白歌合戦でTM様と奈々様がコラボしたじゃないですか。あのとき奈々様がお召しになっていた衣装がまさに「肩切り」と同じ仕組みになってました。奈々様に遠心力が重要だと教えて差し上げたかった…。
そんなこんなで、割とあっさり手下の二人は殺られてしまいます。そぃやぁあ゛!!
そしてついに、最終ラウンド・滝夜叉姫戦。
石見神楽はタイマンかダブルスが基本なんですけど、芸北は「2対1」が多いですね。こっちの方がオーソドックスなのかなー。*3
突然、滝夜叉姫が一瞬で鬼に変わってビックリしますよね!!これは芸北の十八番の「面の早がえ」といって、広島の得意演目である「鬼女もの」では必ず見せてくれるんですよー!!
このトリックは、面の内側に口でくわえる部分がついた「くわえ面」という特殊な面を使用し、懐など死角に隠した面を一瞬で付ける難易度の高い技です。分かってても見切れないんだよなー。みんなMr.マリックなのかなー。
ここからの戦いは、ほんともう、息を止めて、見てください。
薙刀と妖術を自由自在に操り、鬼と化した姫はたった一人きり戦い抜きます。
が、力及ばず光圀に切り伏せられ、妖術も底を尽き、元の姿へ戻る姫。
もはやこれまでと最期の刻を知った姫は、泣きながら光圀の一太刀を浴びます。
こうして、滝夜叉姫は父の仇を晴らせぬまま、無念の内に息を引き取ったのでした―――。
少し一言
………哀しい。ただただ哀しい。
実を言うと、広島のこういうザ・悲劇チックな演目はあまり好きでないのです。神楽はスカッとするもの!!勧善懲悪!!ザ・王道!!が好きなので。現実は大変だから、せめて神楽はハッピーエンドでいて欲しい。
だから、『滝夜叉姫』は解説しないだろうなぁと思ってました。
この演目を初めて見たのはもう随分前のことですが、あのときの衝撃、というかもやもやした感情は今も鮮明に思い出せます。
暗闇の中、白く、ぼう、と浮かび上がる姫の姿。命を賭して戦ったのにあっけなく散って行った姫の最期。夜神楽では見られない照明の演出が加わった『滝夜叉姫』は、もはや神楽の域を超えて、一つの物語として見入った記憶があります。
ただただ哀しかった。その後の演目が頭に入ってこなかった。
あれから、あまり好んで見ないけど、それでも好奇心に負けて何回か見たけれど。
あの日、あの時のように胸を打つ『滝夜叉姫』に、私はまだ出会えていません。
石見神楽はもちろん大好きなのですが、私は芸北神楽もほんと小っさい頃から見てきたので、広島の舞も大好きです。その芸北神楽がテーマのドラマが全国放送で見れるだなんて、一ファンとしてとってもとっても喜ばしく思います。
神楽の魅力に地元の人以外が気付いて、面白いよね、もっとたくさんの人に面白いって言ってもいい?と認められたような、なぜか誇らしいような気分になりました。
もっと、もっと、神楽の魅力が地元の人にも、いろんな場所にも届いたらいいなと思います。
それでは来る11/30(水)夜10時~「舞え!KAGURA姫」BSプレミアムにて放送です!!
楽しみ!!!
*1:貴船神社のご祭神・高龗神(たかおかみのかみ)は超パワーのある女神さまで龍神さま。平安京の雨乞いはずっとこの場所で行われていました。一方、強力な呪詛神としても有名で、「貴船の丑の刻参り」は数多くの文学作品に影響を与えています。このように、「どうにもならない事をなんとかして欲しい」という望みの最後の砦として「貴船の願掛け」は描かれてきました。一見、恐ろしそうな印象を受けますが、行き場のない想いを聞き入れて下さる、やさしいやさしい神様だと思います。
*2:マネしたい人用。「なんじょう、なにごとにてそうろう」
*3:わたし調べによると、特に新舞に関しては「鬼3対神2」からの子分戦「2対2」→大将戦「1対2」の形が超多い気がします。ドラクエのボス戦みたいな感じで良いですね。まぁ、ドラクエなら先にボス倒す派だけどね。
【滝夜叉姫】解説しろ!KAGURAオタ 〈基礎知識編〉
うちは韓国ドラマ見たさにNHK BSが映るんですが、この前いつものようにBSプレミアム見てたらですね、なんとね、神楽を題材にしたドラマをやるらしい。まじか。その名もなんと「舞え!KAGURA姫」・・・カワイイーーー!!うちのブログもこういうかわゆいタイトルにすりゃ良かった!!マカロンみたいなのにすりゃ良かった!!
それは置いといてですね、すごくないですか!?広島放送局頑張った!!BSと言えど全国放送ですからね~、企画からなんやらかんやら本当に大変だったと思います。神楽ネタ映像にするの大体ポシャるんだよな~。しかも何より一番すごいのは主役の舞手を女の子が演じたってことです!!シビれる!!ようもうた(´;ω;`)!!まだCMをチラッと見ただけなんですが、今からもう楽しみです~。いやっほう!!
ってことで、このまま神楽ブームにあやかりたい本ブログは今回も芸北神楽を解説したいと思います。もしかしたら神楽全然見たことないビギナーさんが読んでくれるかな、と期待して出来るだけ懇切丁寧に書くつもりなので、前の記事と内容が重複するところもありますが、悪しからず。いつもの崩壊テンションはお休みです。
いつものように長くなったので2分割しました。
前半〈基礎知識編〉は、神楽って何?という基本的な説明と『滝夜叉姫』のストーリーにまつわるトリビア、後半〈実況解説編〉は実際に舞を見ながら解説を加えていく仕様になっています。
解説読みながら舞が見たい!!って人は後半へどうぞ。→【後半】
あと、オタクの長たらしい説明はいらぬって人は「舞え!KAGURA姫」のサイトで非っ常~~~に分かりやすく神楽の基礎知識を動画で紹介されていますので、是非是非ご参考になさって下さい!!
ドラマ終わってもこのページ残しといて!!!!!(懇願)
※私の懇願もむなしく、現在(2017/5/20確認)では公式サイト様は無くなっちゃったみたいです…。残念なり無念なり…。
それではレッツ前半・基礎知識編!!
神楽とはなんぞや?
まずは神楽とはなんぞや?から。
神楽って一言で説明するの難しい。元は神事の一環として派生したもので、能や謡曲などの演劇に影響を受けた“昔版ミュージカル”と思って頂けたらイメージしやすいかな。
神楽、と呼ばれるものは実は全国各地にあって、神社があるところには必ず神楽があります。その土地の神様に一年の恵みを感謝し来たる一年の無事と発展を祈るため、神社の舞殿=ステージで神話や伝承をもとにしたミュージカルを夜通しで神様に披露し、その御魂を慰め楽しませることが神楽の起源であり、本来の目的です。
しかし、せっかく一年に一回のスペシャルデーなのに神様おひとりで見るのはさみしくない??みんなで盛り上がれば神様ももっと楽しくない!?と考えたのが、島根県西部・石見地方~広島県北部・芸北地方の神楽。
この地方に伝わる神楽は神様も役者もお客もみーーんな一緒になって楽しもう!!っていう特徴があって、他地域に比べ神様と人間のキョリが近く(そして神憑りをおこす)、また民間主体で伝統を保持しているため、大人も子供もみんな神楽が大好きです。
現在ではショッピングセンターやホールなど神社以外でも神楽を見ることができ、ライブやフェス感覚で楽しむのが主流となりつつあります。
特に「舞え!KAGURA姫」の舞台は広島県北部ということなので、この中でも歌舞伎の影響をモロに受けた「芸北神楽」が盛んに行われている土地です*1。
この「芸北神楽」は島根県西部の「石見神楽」の流れを汲んではいますが、歌舞伎などの流行をガンガン取り入れた「お客さんのための神楽」として発展してきた歴史を持っているので、衣装や演出がとにかく豪華で派手。そして面を付けずに「白塗り」という化粧をして舞うのが一番の特徴です。
また石見神楽は神話ベースの神様物語を勧善懲悪・単純明快に描くバトルものを好みますが、芸北神楽は歌舞伎ベースのヒーロー譚や「姫もの」「鬼女もの」という女形がメインの繊細かつ優美な、ストーリー性を重視した世界観を持つ演目が得意です。
「広島の神楽はショーじゃけぇ」と地元の方が言われる通り、衣装・演出・舞、全てのレベルがどの神楽団も総じて高く、分かりやすいセリフ回しとストーリーは大変見やすいので女性やビギナーさんにはとってもおススメの神楽です。
(神楽の分類についてもう少し詳しく知りたい方はコチラへ。→【小ネタ】)
(芸北神楽の代表演目『紅葉狩』も解説してます。通常運転が気になる方はコチラ。→【紅葉狩】)
と、ここまでは神楽のざっくりした説明と芸北神楽についてのおはなし。
お次は神楽の基礎知識について。
先ほど言った通り、神楽=昔版ミュージカルです。なので構造はいたって単純。
役者は舞手(まいて)、バンドは囃子(はやし)、ダンスは舞、セリフは口上(こうじょう)と言い、ヒーロー=神とヴィラン=鬼の対決を描きます。ザッデーイ、ハズカァーームッ!!
一演目の上演時間については大体40~60分が目安で、この長時間を重さ約20kgの衣装を纏い、ほぼノンストップで踊らなければなりません。
神楽の衣装は金糸銀糸、ベロア生地などがふんだんに使われている超高級品。一着200万~300万円もします。そのうえクリーニングできないので非常に大切に、慎重に取り扱われています。触っちゃダメだよ、触りたくなるけど。
そういや、ドラマのCMで神楽シーン見たとき「こりゃ間違いなく『滝夜叉姫』だ。」と思っていそいそサイトに行ってみるとスチール写真は「ん??『紅葉狩』か??」ってなった。結局やっぱり『滝夜叉姫』だった。
んだけど、このスチール写真よ~く見るとガチの神楽の衣装じゃないよね…多分…。とするとNHKの衣装さんが頑張って作ったってことかな…、え…、おいくら万円??(恐怖)ってなった。さだまさしにお願いされて払った受信料はこういうところに生かされてるのね(恐怖)ってなった。ともあれ良い写真じゃのー。
それではやっと!演目解説して参りましょう。ネタバレしたくない人は見ないでね。
演目についての前情報はいらない!早く舞を解説しろ!という人は後半へ。→【後半】
『滝夜叉姫』とは?
広島の神楽は比較的最近作られた新しい舞=「新舞」と儀式舞のように旧くから伝わる舞=「旧舞」、この2つの括りがあって、『滝夜叉姫』は「新舞」にあたります。石見神楽では「創作神楽」みたいな感じかな。
本演目のあらすじは、
「先の天慶の乱にて討ち滅ぼされた平将門の娘・五月姫が一族の恨みを果たすべく、毎夜丑の刻に貴船神社へ参り、満願叶いとうとう妖術を授かると、滝夜叉姫と名を変え朝廷に反乱を起こす――」
という下剋上ストーリー。
しかし実際のところ、滝夜叉姫という人物はいなかったのだとか。そもそもこんな反乱はなかったのだとか。このお話はフィクションであり実在の人物・団体・名称とは一切関係はありませんなんだとか。
この神楽自体ベースになったお話に決定的なものがなく、「滝夜叉姫伝説」もどこから発生したのか謎なところ。一説には歌舞伎「忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)」・通称「将門」が下敷きになっているらしいけど、うーん、廓もの?なんだよなー、コレ。滝夜叉姫は遊女の設定で、神楽みたいに大軍を引き連れて妖術使いまくりなデスメタル系(※イメージです。)じゃないんだよなー、うーん。
実は『滝夜叉姫』とよーく似たものが石見神楽にありまして…、その名もズバリ『貴船』っていうんだけどね…、そのー、男に捨てられた女が恨みを晴らすべく貴船に丑の刻参りをする、というストーリーなんですが、あまりに内容が陰惨すぎて禁止令が出たらしい。こわ。それからというもの保持演目にされてる社中はほぼ無く、夜神楽とかハッピーな場所で舞うのもどうかということで、滅多な限り見られない幻の演目になったらしい。こわ。かく言う私も全然見たことないです。
ただ、写真と資料によれば大まかなストーリーは同じだし、何より衣装がそっくりなんだよねー…、驚くべきことにねー…。『滝夜叉姫』といえば赤!!って紹介してる人多いし(私は白派)、実際その通りなんだけど、あのね、『貴船』の女の人も真っ赤な襦袢着て頭に蝋燭立ててるんだよね…。*2こわっ。ぞぞっとした。
この2つの演目は能「鉄輪(かなわ)」を元にしたとも言われていて、石見から芸北に『貴船』が伝わり、平氏の本拠地だった安芸の性質と相まって『滝夜叉姫』になったんじゃないかな、と私は勝手に思っています。
ちなみに歌川国芳の有名な浮世絵『相馬の古内裏』は、妖術を授かった滝夜叉姫ががしゃどくろを召喚したシーンを描いているらしい。でっかい骸骨=進撃の巨人っぽいやつ。ぽんぽこの妖怪大集合シーンに出てくるやつ。神楽では召喚しませんけどね。
さて、ゾゾゾッとしたところで後味悪く後半へ続きます。→【後半】
【大蛇図解】ビッグドラゴン・クエスト∞
アクセス数がバーーッとアップしたと思いきや、別にそうでもなくなった今日この頃。やはり長いものに巻かれながら、媚売りながら、一生懸命書いていきたいと思います。本日もヤケクソ元気よくスタートです。
てゆうかね、ビギナー向けと言いつつ、情報量のエグさが止まらないんですけど。誰かマニアックを止めてください。ジェットコースターみたいなテンションでマイナージャンルを語る、私はもう立派なオタクになれそうです。
お母さん、そんな目で見ないで下さい。
突然ですけどみなさん、『大蛇』の技の名前、気になりませんか?
私は気になって気になって仕方ないです、オタクなので。
フィギュアスケートでも大技決めたら「トリプルルッツゥゥ!!」とか「イナバウアァァー!!」とか「ご結婚おめでとぉぉぉう!!」*1って叫ぶじゃないですか。海賊も忍者も死神もエクソシストも美食家も魔法少女もみんーな必殺技叫ぶじゃないですか。
私だって「クリリンのことかーーー!!!」って叫びたい。
なので、今回は『大蛇』の技をご紹介します。
この記事が気になったそこのあなた、十分オタクですよ。
さて、物語中盤、酒の匂いに誘われて山奥から出てきたオロチたちが舞台を目いっぱい使って演舞するこのシーン。オロチがとぐろを巻いたり、8体全員で組技を披露したりと様々な技を披露します。勇壮華麗かつ大迫力で、まさに「石見神楽の華」とはこのこと。技の一つ一つに伝統の息吹を感じます。
そんな大技であるオロチの演舞ですが、実は社中によって技の呼び方は様々で、決まった名前はないのだとか。
なんでなんですか!?と聞けば、
「蛇胴が絡まないようにする方が大事で、いちいち名前なんか覚えてられない」
と言われました。蛇の道はやはりHEAVYです。・・・言いたいだけ。
そんで頑張って自力で調べてみるも、たった5コしか技名が分かりませんでした。無念です…。気になって気になってしょうがない方、力及ばず申し訳ありません…。
が、それでは記事にならないので、私が呼んでいる技名も含めて図解したいと思います。写真は出典書いたりなんか色々めんどくさい大変だったので、自分でイラスト書きました。元・美術部ドヤァ(・∀・)!!
ちなみに、これからご紹介する大蛇ネタは、石見観光振興協議会さんの「なつかしの国 石見」と浜田市観光協会さんの「石見神楽」でとっても分かりやすく説明されていますので、ぜひぜひご参考になさって下さい!!
リンク貼っておきます。
・きゃわゆいイラストで蛇胴の仕組みが解説されています。大まめ知識です。
石見神楽まめ知識-石見神楽-なつかしの国石見/島根県西部公式観光サイト
・マニアックな質問に全力で答えておられます。大蛇のQ&Aは下の方にあります。
それでは、一応私からも説明していきましょう。
まずはオロチの仕組みについての復習から。「蛇頭」と「蛇胴」について。
「なつかしの国 石見」のきゃわゆい解説によれば、蛇胴はなんと12kgもあるらしい。普通に重いですね、まさに蛇の道はHEA…飽きたとか言わないで下さいよ。
次にオロチの基本形、とぐろをピシっと巻いた状態。私は「チョココロネ」と命名。
ふつうに「とぐろを巻く」と言ったりします。が、浜田市観光協会のサイトによると「甑(こしき)を立てる」とも呼ぶらしい。
「甑」ってなんだよ!見たことないわ、こんな漢字!とググってみると、大型のせいろのことだそうです。せいろは飲茶が入ってる中国発の蒸し器ですね。だからと言って「甑を立てる」のイメージが分かりません。日本語は難しいです。*2
お次はこれも基本形の一つ、ゆったりとぐろを巻いた状態。
これも「とぐろを巻く」と呼ぶらしいです。ややこしいわ。「とぐろ(低)」でいいかな。浜田市観光協会さんは「ハマをかく」と紹介されてますね。ところでハマって一体なんですか?日本語は難しいです。
そしてこの「ハマをかく」「とぐろ(低)」をそのまま立てると「胴見せ」「縦とぐろ」になります。この様子はこちらの動画がとても分かりやすかったので、貼っときますね。
この動画では「回転しながらとぐろを巻いて、その反対方向に回転してとぐろを解く」と説明されていますが、神楽の基本は左に回って、右に戻るなので「とぐろを巻くのは左回り、解くのは右回り」が多いような。巻く方向を統一しないとキレイに見えないので、どの社中さんもそろえておられますよね。
また、「縦とぐろ」を2~4体で組み合わせてグルグルする技もあります。ちなみに私は「新装開店」と呼んでいる。
組技は他にも色々あって、オロチの体を交互にねじる「縄」というのが代表的。あとは名前が分かんなかったので、「かごバック」「すべり台」と命名しました。
そして『大蛇』一番の大技「大輪」。8匹のオロチ全員がグルグルグルグル回って本当にすごい!!これぞ『大蛇』!!クッ…、私は、これを見るために一年間生きてきたんだ…ッ!!・・・んー、それはちょっと言い過ぎでした。
この技は「大輪」の他にも「円陣」「大ハマ」「全頭巻き」と呼ぶらしい。私は見たまんま「おふろ」と呼んでいます。夜神楽で4体の場合は「家のおふろ」です。お母さんは「大浴場」「露天風呂」と呼んでいました。血のつながりを感じました。
見てるだけでも大変そうなの分かるんですけど、あの中で全力ダッシュしてるっぽいですね。夜神楽は大体4~8畳あるかな?くらいの小さなスペースで舞いますが、ホールや体育館の舞台のときは本当にキツそう。あの中で「うおぉぉおぉおもたいぃぃ!!」とか叫んでるのかな…。「ぅおもたいぃいじゃなかった、HEAVYEEE!!」とか言ってるのかな…。どうなのかな…。「URYEEEEE!!」かな…。
こんなもんかな。
他にも梅の花みたいにかわいいのとか色々あるんですが、イラスト書くの疲れたんで、また気が向いたらまとめようと思います。
なお、イラストに対しての苦情は一切受け付けませんので、ご了承ください。
【鍾馗後編】Dr.SHOWKI
⇒【前編】はコチラ。
さて、やっと本編を追っていきましょう。ストーリーは「ウィルスvsキラーT細胞」なので単純明快です。
まずは、幕内から煌びやかな衣装をまとった鍾馗大臣が姿を現します。
鍾馗大臣の面は「鍾馗面」といい、『大蛇』の「須佐之男面」とそっくりです。よく見りゃたくましいお顔とお髭が激似ですよね。『大蛇』は日本なので「烏帽子」を、『鍾馗』は中国なので「唐冠」というエビフライの尻尾みたいなお帽子を被っておられます。聖徳太子が被ってるアレですね。
手には「茅の輪」と「十束の宝剣」を握り、衣装はどこもかしこもキラキラで超ド派手。けれどいやらしさは一切なく、威厳と風格、気品をも漂わせています。『鍾馗』の衣装は石見神楽の中で一番豪華と言われており、この豪華な衣装と重厚な舞との絶妙なバランスが見どころの一つ。
神方(神様やヒーロー側)は基本的に鬼と比べて軽めの格好をしており、足元が野球部みたいになってる場合が多いんですが、鍾馗大臣の格好は鬼とほぼ同じです。ここらへんからも『鍾馗』が特別な演目だということがお分かりいただけますかね。
厳かに登場した鍾馗大臣は玄宗皇帝の病を取り除くべく、診察を開始します。
手に持ったでっかいクリスマスリースが「茅の輪」。まわりのクリスマスカラーのヒラヒラは病を焼き払う炎を表しており、真ん中は病巣を見つけ出すスコープの役割を持つ最強最高の武器で縁起物です。(「茅の輪」についてはこちら参照→『天岩戸』)
「茅の輪」を覗いてうんうん頷きながらゆっくり動くのはCTスキャンした映像をじっくり見てる最中だから。鍾馗先生診察中につき、急患以外は声をかけないで下さい。
異常なし、異常なしと画像診断していると何やら黒い影が映ります。「どうやらここらへんが怪しそうだぞ…」といざ病魔の巣食う体内に入るべく、宝剣を逆手、正手に持ちかえつつメスを入れる鍾馗先生。いま手術中のランプが点きました。鍾馗先生、外科医なんですね。金持ちそうです。
神楽囃子をオペ中のBGMに慎重かつ大胆にメスを進めていくと、鍾馗先生の後ろの幕が不自然に揺れだします。中からガラの悪そうな声は聞こえるし、スモークも出てくるし、てゆうか足ちょっと出てるし、怪しいフラグ立ちまくりなので鍾馗先生はさらに慎重に「すり足」で近づいていきます。
この「すり足」は神楽の基本技で片足だけなら鬼がよくしてますよね。神も鬼も両足でするのは『鍾馗』だけのような気がする。「すり足」=『鍾馗』って感じだなー。
一見難しそうな「すり足」ですが、実は少女時代の「Gee」と一緒なのでみなさんぜひお家で練習して下さい!!Aメロのカニ足ダンスと同じように足をハの字→逆ハの字→ハの字→・・・と繰り返すだけ!!超カンタン!!
ちなみに片足のすり足は「Genie」のサビ、『恵比寿』の「首ふり」は「PAPARAZZI」のウララーラーと一緒など少女時代のダンスは神楽と同じ技いっぱい使ってるんですよねー!!ぷりばっこーん!!!
んで、二人楽しくGee Gee Geeしてばっかだと怒られちゃうから、いきなりにゅっと鬼棒が出てきます。…と思ったらまた引っ込んじゃいます。…と思ったらまた出てきたりとあ゛ーーーなんでそこで遊んでんの!!早く出て来いよ!!イライラするーあ゛ーーー!!しかも、普通だったら鬼が姿を現すのを神はじっと待ち構えるものですが、ちょっと!!鍾馗先生、どこ見てるんですか!!うしろにいるよ!!Gee Gee Geeしてんじゃないよ!!
と、このように鬼が出たり引っ込んだり、神が鬼を無視してうんうん言っているのは全部演出です。まんまと踊らされました。踊るがStyleなのに。
『鍾馗』の鬼は疫神=病魔。ウィルスは目に見えませんよね。それは今も昔も同じで、「茅の輪」を通して見ないと疫神は目に映らないのです。だから鍾馗先生は首をひねりながら一生懸命に疫神を探し、それをあざ笑うかのように疫神は姿を捉えさせません。
「鍾馗の鬼は低く舞え」の通りに疫神は見つからないように隠れます。HIDE&SEEKのToday’s night。ちなみに玄人はこのシーンでの幕の使い方を見るらしい*1。
そして、幕から鬼が姿を現します。
が、鍾馗先生は全く気づきません。どんなに疫神が近づいても、どんなに顔と顔とが近づいても、「茅の輪」を通してでなければ見えないのです。二人の距離感がおかしいのはこういう理由です。
ここの表現が『鍾馗』が難しいと呼ばれる所以。鍾馗大臣はじっくりと、疫神はこざかしく。しかし手に汗握る緊迫感と高揚感が場を満たしていなければなりせん。このシーンを解説なしでも理解できるように舞えるかどうかが腕の見せ所です。
緊張がじりじりと登り詰めていき、ついに、疫神の姿を捉えます。
見つかってしまった疫神は先ほどと打って変わり、姿を大きく広げ鍾馗大臣を挑発してきます。
「おお我はこれ。春の疫癘、夏瘧癘。秋の血腹に冬咳病。一切病の司。疫神とは我が事なり。」*2
疫癘(えきれい)とは天然痘、瘧癘(ぎゃくれい)はマラリア、血腹は重篤な下血、そして冬の風邪。全ての病はこの疫神の仕業であると自慢気に言い放つ姿は、先ほどのこざかしく、ちいさな姿からは想像出来ないほどに気味が悪い。
続けて疫神はこうも言います。
「幼きものはかみひしぎ、老いたるものは踏み殺し、また、元気さかんなるものと見るならば、五臓六腑に分け入って、肝のたばねを食いちぎる」と。
病気って本当にそうだな、と、医療が発展した現在でも実感します。縋るような想いで病気を治してくださいと祈ったのは、ここ数年ずっとでしたから。
鍾馗は宝剣を逆手に持ちかえ、疫神と激闘を繰り広げます。
大きく優雅に、かつ力強く大胆に。
一神一鬼の戦いに引き込まれるように立ち上る熱気に、空は段々と白んでゆきます。
そしてやっと疫神の首を捕らえ、茅の輪の中へと押し込めます。が、これがなかなかに死なない。茅の輪で焼き切ろうとも寸でのところですり抜け、鍾馗の背後を小賢しく狙います。病気が目に見えなかった時代に、よくもここまで病の本質を理解していたなと昔の人の観察眼には恐れ入ります。
悪戦苦闘の末、再度茅の輪の中に捕えると、これで逃げられまいと宝剣を突き刺し、ついに疫神を封じ込めました。
暴れ回り、小さくなるもまだ息のある鬼。
とどめとばかりに渾身の力で宝剣を突き立てます。
もはや叶わぬと悟った疫神は、最後の力を振り絞り皇帝の体の内より出て行きました。
鍾馗大臣は見事、疫神を退け、皇帝を病魔より救い出したのです。
・・・いかかがでしたか、『鍾馗』。
物語も、舞も、すべてが重いですよね。好きになれそうですか?
『鍾馗』はなぜこんなにも重いのか。
一神一鬼の戦いだから?しっかり舞わないと神楽が成立しないから?舞手の技量を見せないといけないから?
舞に関することであればいくつでも想像できるでしょう。
でもきっと、そのどれもが違います。
『鍾馗』の重さは、舞手が生み出すものではないからです。
この重みは、何十年、何百年と積み重なってきた人々の祈りだと思います。
だからこそ鍾馗は肩を怒らせて、憤怒の形相で鬼を退治するのです。
この演目は素人が見ても分からないと言いました。
それは単純に舞に関する目が肥えてないから、という意味も含まれますが、この土地に住む人々が何年も何年も、ずっと『鍾馗』に捧げてきた願いを汲み取れないだろうから、というエゴイステックな心情が多分に含まれているからです。
社中で一番上手な人が舞い、一番良い衣装を着て、夜明け前の一番静かな時に舞う。
この祈りが必ず、神様のもとへ届くように。
今年も一年健康に過ごせますように、みんなが無事でありますようにと。
『鍾馗』を本気で見たいのなら、ただ心をかたむけて見れば良いと思うのです。
祈りを込めて見れば、それで。