秋の夜長に勝手に石見神楽を解説しようじゃないか。

島根西部の伝統芸能・石見神楽を妄想と主観で解説してます。ビギナー向け。

【滝夜叉姫】解説しろ!KAGURAオタ 〈基礎知識編〉

うちは韓国ドラマ見たさにNHK BSが映るんですが、この前いつものようにBSプレミアム見てたらですね、なんとね、神楽を題材にしたドラマをやるらしいまじか。その名もなんと「舞え!KAGURA姫」・・・カワイイーーー!!うちのブログもこういうかわゆいタイトルにすりゃ良かった!!カロンみたいなのにすりゃ良かった!!

それは置いといてですね、すごくないですか!?広島放送局頑張った!!BSと言えど全国放送ですからね~、企画からなんやらかんやら本当に大変だったと思います神楽ネタ映像にするの大体ポシャるんだよな~しかも何より一番すごいのは主役の舞手を女の子が演じたってことです!!シビれる!!ようもうた(´;ω;`)!!まだCMをチラッと見ただけなんですが、今からもう楽しみです~。いやっほう!!

ってことで、このまま神楽ブームにあやかりたい本ブログは今回も芸北神楽を解説したいと思います。もしかしたら神楽全然見たことないビギナーさんが読んでくれるかな、と期待して出来るだけ懇切丁寧に書くつもりなので、前の記事と内容が重複するところもありますが、悪しからず。いつもの崩壊テンションはお休みです。

いつものように長くなったので2分割しました。

前半〈基礎知識編〉は、神楽って何?という基本的な説明と『滝夜叉姫』のストーリーにまつわるトリビア後半〈実況解説編〉実際に舞を見ながら解説を加えていく仕様になっています。

解説読みながら舞が見たい!!って人は後半へどうぞ。→【後半】

あと、オタクの長たらしい説明はいらぬって人は「舞え!KAGURA姫」のサイトで非っ常~~~に分かりやすく神楽の基礎知識を動画で紹介されていますので、是非是非ご参考になさって下さい!!

ドラマ終わってもこのページ残しといて!!!!!(懇願)

 

※私の懇願もむなしく、現在(2017/5/20確認)では公式サイト様は無くなっちゃったみたいです…。残念なり無念なり…。

 

それではレッツ前半・基礎知識編!!

 

 

神楽とはなんぞや?

まずは神楽とはなんぞや?から。

神楽って一言で説明するの難しい。元は神事の一環として派生したもので、能や謡曲などの演劇に影響を受けた“昔版ミュージカル”と思って頂けたらイメージしやすいかな。

神楽、と呼ばれるものは実は全国各地にあって、神社があるところには必ず神楽があります。その土地の神様に一年の恵みを感謝し来たる一年の無事と発展を祈るため、神社の舞殿=ステージで神話や伝承をもとにしたミュージカルを夜通しで神様に披露し、その御魂を慰め楽しませることが神楽の起源であり、本来の目的です。

しかし、せっかく一年に一回のスペシャルデーなのに神様おひとりで見るのはさみしくない??みんなで盛り上がれば神様ももっと楽しくない!?と考えたのが、島根県西部・石見地方~広島県北部・芸北地方の神楽

この地方に伝わる神楽は神様も役者もお客もみーーんな一緒になって楽しもう!!っていう特徴があって、他地域に比べ神様と人間のキョリが近く(そして神憑りをおこす)、また民間主体で伝統を保持しているため、大人も子供もみんな神楽が大好きです。

現在ではショッピングセンターやホールなど神社以外でも神楽を見ることができ、ライブやフェス感覚で楽しむのが主流となりつつあります。

 

特に「舞え!KAGURA姫」の舞台は広島県北部ということなので、この中でも歌舞伎の影響をモロに受けた「芸北神楽」が盛んに行われている土地です*1

 

この「芸北神楽」は島根県西部の「石見神楽」の流れを汲んではいますが、歌舞伎などの流行をガンガン取り入れた「お客さんのための神楽」として発展してきた歴史を持っているので、衣装や演出がとにかく豪華で派手。そして面を付けずに「白塗り」という化粧をして舞うのが一番の特徴です。

また石見神楽は神話ベースの神様物語を勧善懲悪・単純明快に描くバトルものを好みますが、芸北神楽は歌舞伎ベースのヒーロー譚や「姫もの」「鬼女もの」という女形がメインの繊細かつ優美な、ストーリー性を重視した世界観を持つ演目が得意です。

「広島の神楽はショーじゃけぇ」と地元の方が言われる通り、衣装・演出・舞、全てのレベルがどの神楽団も総じて高く、分かりやすいセリフ回しとストーリーは大変見やすいので女性やビギナーさんにはとってもおススメの神楽です。

 

(神楽の分類についてもう少し詳しく知りたい方はコチラへ。→【小ネタ】)

(芸北神楽の代表演目『紅葉狩』も解説してます。通常運転が気になる方はコチラ。→【紅葉狩】)

 

と、ここまでは神楽のざっくりした説明と芸北神楽についてのおはなし。

お次は神楽の基礎知識について。

 

先ほど言った通り、神楽=昔版ミュージカルです。なので構造はいたって単純。

役者は舞手(まいて)、バンドは囃子(はやし)、ダンスは舞、セリフは口上(こうじょう)と言い、ヒーロー=神ヴィラン=鬼の対決を描きます。ザッデーイ、ハズカァーームッ!!

一演目の上演時間については大体40~60分が目安で、この長時間を重さ約20kgの衣装を纏い、ほぼノンストップで踊らなければなりません

神楽の衣装は金糸銀糸、ベロア生地などがふんだんに使われている超高級品。一着200万~300万円もします。そのうえクリーニングできないので非常に大切に、慎重に取り扱われています。触っちゃダメだよ、触りたくなるけど。

そういや、ドラマのCMで神楽シーン見たとき「こりゃ間違いなく『滝夜叉姫』だ。」と思っていそいそサイトに行ってみるとスチール写真は「ん??『紅葉狩』か??」ってなった。結局やっぱり『滝夜叉姫』だった。

んだけど、このスチール写真よ~く見るとガチの神楽の衣装じゃないよね…多分…。とするとNHKの衣装さんが頑張って作ったってことかな…、え…、おいくら万円??(恐怖)ってなった。さだまさしにお願いされて払った受信料はこういうところに生かされてるのね(恐怖)ってなった。ともあれ良い写真じゃのー。

 

それではやっと!演目解説して参りましょう。ネタバレしたくない人は見ないでね

演目についての前情報はいらない!早く舞を解説しろ!という人は後半へ。→【後半】

 

『滝夜叉姫』とは?

広島の神楽は比較的最近作られた新しい舞=「新舞」儀式舞のように旧くから伝わる舞=「旧舞」、この2つの括りがあって、『滝夜叉姫』は「新舞」にあたります。石見神楽では「創作神楽」みたいな感じかな。

 

本演目のあらすじは、

「先の天慶の乱にて討ち滅ぼされた平将門の娘・五月姫が一族の恨みを果たすべく、毎夜丑の刻に貴船神社へ参り、満願叶いとうとう妖術を授かると、滝夜叉姫と名を変え朝廷に反乱を起こす――」

という下剋上ストーリー

しかし実際のところ、滝夜叉姫という人物はいなかったのだとか。そもそもこんな反乱はなかったのだとか。このお話はフィクションであり実在の人物・団体・名称とは一切関係はありませんなんだとか。

この神楽自体ベースになったお話に決定的なものがなく、「滝夜叉姫伝説」もどこから発生したのか謎なところ。一説には歌舞伎「忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)」通称「将門」が下敷きになっているらしいけど、うーん、廓もの?なんだよなー、コレ。滝夜叉姫は遊女の設定で、神楽みたいに大軍を引き連れて妖術使いまくりなデスメタル(※イメージです。)じゃないんだよなー、うーん。

 

実は『滝夜叉姫』とよーく似たものが石見神楽にありまして…、その名もズバリ貴船っていうんだけどね…、そのー、男に捨てられた女が恨みを晴らすべく貴船に丑の刻参りをする、というストーリーなんですが、あまりに内容が陰惨すぎて禁止令が出たらしい。こわ。それからというもの保持演目にされてる社中はほぼ無く、夜神楽とかハッピーな場所で舞うのもどうかということで、滅多な限り見られない幻の演目になったらしい。こわ。かく言う私も全然見たことないです。

ただ、写真と資料によれば大まかなストーリーは同じだし、何より衣装がそっくりなんだよねー…、驚くべきことにねー…。滝夜叉姫』といえば赤!!って紹介してる人多いし(私は白派)、実際その通りなんだけど、あのね、貴船』の女の人も真っ赤な襦袢着て頭に蝋燭立ててるんだよね…。*2こわっ。ぞぞっとした。

この2つの演目は能「鉄輪(かなわ)」を元にしたとも言われていて、石見から芸北に『貴船』が伝わり、平氏の本拠地だった安芸の性質と相まって『滝夜叉姫』になったんじゃないかな、と私は勝手に思っています。

 

ちなみに歌川国芳の有名な浮世絵『相馬の古内裏』は、妖術を授かった滝夜叉姫ががしゃどくろを召喚したシーンを描いているらしい。でっかい骸骨=進撃の巨人っぽいやつ。ぽんぽこの妖怪大集合シーンに出てくるやつ。神楽では召喚しませんけどね

 

 

さて、ゾゾゾッとしたところで後味悪く後半へ続きます。→【後半】

 

*1:芸北神楽様式は広島県北部~島根県中西部の山間部にかけて見られます。

*2:イメージ的には野村萬斎主演の映画「陰陽師」の1シーンが実にそれっぽい感じでした!興味のある人はぜひ!