秋の夜長に勝手に石見神楽を解説しようじゃないか。

島根西部の伝統芸能・石見神楽を妄想と主観で解説してます。ビギナー向け。

【紅葉狩解説・雑学】合コンは戦場だ。

さむいさむい言ってましたが、ここ2、3日あったかいですね。ババアなので気温差がある方が体にこたえます。変温動物か。実はオロチなの…か…?気候が落ち着いてくれることを願ってやみません。

 

さて、お日和も良いことなので、今回は『紅葉狩』について。

紅葉狩りってキーワードに引っかかってくれないかなとかそういうことは考えていません。四季を愛でる風流な心でスタートです。

 

『紅葉狩』は厳密に言うと、石見神楽ではなく広島の神楽≒芸北神楽になります。島根の山間部の社中さんは舞うのかな?どうなのかな*1

まだ石見神楽のメジャー演目も解説してないのに!!この、バァホ!!という声が聞こえてきそうですが、この時期逃したら二度と書けない気がするのでせっせと解説&雑学したいと思います。特別出演的な、エキシビジョン的な感じで読んでください。

 

まずは、広島の神楽について、ざっと説明。(前に書いた記事もご参考までに。→【小ネタ】)

 

広島の神楽って、ハッキリ言ってすごい面白いですよね。派手だし、何言ってるか分かりやすいし、舞も囃子もレベルが高くて、まー文句のつけようがない。完成度高ェなオイ。

なんでこんなに面白いのかといえば、とりわけ広島はショーとして発展してきた歴史を持ち、より大衆向け・お客さん向けの神楽を舞ってきたから。市場競争にもまれまくってるからですね。

歌舞伎の影響をモロに受けているため、演目・衣装・演出はまさに豪華絢爛。特に「白塗り」という化粧をして舞うのが石見神楽との一番の違いです。この特色を生かして、「姫もの」「鬼女もの」と呼ばれる女形がメインの華やかな演目を得意としています。

 

石見神楽の華が『大蛇』ならば、芸北神楽の華は間違いなく『紅葉狩』。得意の「鬼女もの」かつ、ストーリー展開もテンポ良く、十八番の「面の早替え」もあってとってもおススメ!!私的には、あんま演劇っぽいシーンがなくて、サクッと化けて戦って殺られるところが、この演目の一番評価したいポイントです。←横暴

 

 

いやいやいやいや、素敵なんだから!!『紅葉狩』!!レッツ解説&雑学!!

 

 

この物語の舞台は、信州は戸隠山――紅葉の錦彩る山中にて始まります。

戸隠山ググってみたけど、なんか岩山っぽいごつごつした感じですね。ホントにここで紅葉狩りしたの?「戸隠」とは前回の『天岩戸』天照大神を岩戸から引っ張り出すとき、天手力男命がぶん投げた扉のことらしいですよ。お、偶然にもナイスバトン!!ちなみに、戸隠神社の御祭神は龍神さまです。

 

冒頭、偉そうな人が登場しますが、この2人、ただの迷子だからね堂々としてんじゃないよ、もっと焦ろうよ。

チーム方向音痴のリーダーは信濃守・中納言平維茂(たいらのこれもち)お付きの人は清原さんか小松さんかな信濃=信州=自分の赴任先で、

「鹿狩り行こう!→紅葉キレイ!→ 迷子になった…  ←今ココ 」って状態です。

 

この神楽の神楽歌は百人一首でおなじみ、

「奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋はかなしき」

ぴったりすぎてちょっとワロタ。すさまじきぼっち感(笑)。他の演目と比べ若干頼りない2人ですが、無事におうちに帰るため、麓目指してがんばって山を下っていきます。

 

ところ変わって、怪しげなスモークの中から3人の鬼女が登場。

「あー、なんか腹減ったわー。山で迷子になったヤツ取って食うかー。」

「さんせーい。」

マック行こうかみたいな軽いノリで、一瞬にして、恐ろしい鬼女から豪華絢爛な打掛をまとった美女に変身します。

これは「面の早がえ」と言って、広島のお家芸の一つ。ふつう、面は紐でしばって頭の後ろで固定しますが、紐のない「くわえ面」という面を使用します。その名のとおり、面の裏側に口でくわえる部分がついているため、一瞬で取り外し可能な優れモノ。「くわえ面」あっての面の早がえです。

仕組みは分かってもなかなか見破れないところが広島のすごいところ。手を使わずに変えたりするもんね。どうなってんのアレ?ハンドパワー?

 

美女に化けた鬼たちが「早くカモこねーかなー」とウロウロしていると、ついに獲物を発見。

そして私の大好きなセリフ!!

「良き酒肴が…、ン゛のぼりくるゥ、のぼりくるゥ!!!!!

イェーイ!のぼりくるゥ!もう大好きさ!ン゛ってなるところと、るゥは巻き舌なのがポイントね!レッツトるァイ!「ン゛のぼりくるゥ、のぼりくるゥ!!」フッフー!!

 

 

 

・・・落ち着こうね。(深呼吸)

 

みなさんお察しの通り、この獲物は維茂です。下ったんじゃないのかよ、のぼりきてるよ。鬼たちは急いで合コン宴の準備を始めます。

 

ずんずんのぼりきた維茂一行は、とびきりの美女に遭遇。

「こ、こんなとこで何やってるんですか?」

と必死にナンパします。でもまぁ、気持ちは分からないでもない。今まで迷子だったもんね、そりゃ誰かに会えて嬉しいわな美女ならなおさらな。しかし、維茂は思ってたよりもしっかりしていて、こんな寂しい山中で女性だけなんておかしいと疑問に持ちます。

これに美女は艶然と答えて、いわく。

「紅葉がきれいで見とれてしまっていたの。アナタたちも一緒に紅葉狩り、しよ?」

まさかの逆ナーーーン!!おーーーっっと、慣れてる、慣れてるぞ大王どの!!あざとすぎ!!女に嫌われるタイプ!!でもさー、こーゆーのにほいほい引っかかるよねー、男はさー。今も昔も変わらないねー、男はさー。

 

そうして、良い典型例・維茂はあっさり紅葉狩りの酒宴へと招かれて、鬼女たちにそれはおいしく食べられましたとさ。おしまい。

 

 

 

 

 

うそうそうそうそうそ。うそです。まだ続きます。

 

 

空には赤く色付いた紅葉、地上には天女のごとし美女、手には美味い酒。

高級クラブかよ、このセレブめ!!(※維茂はセレブです。) 酒がすすむわ、すすむわ、維茂もお付きもほろ酔い気分。

紅葉の枝を持って踊ってくれるとこもあって、お客さんもみんな紅葉狩に来た気分。酔わせるねー!神楽団によっては、この辺でチラッと鬼女になったりして最高ですー。チラッとで良いんですよ、チラッとで。

 

べろんべろんになった維茂たちは、ついに眠りこけてしまいます。

 

よしきた!!イッシャーー!!きたきたきたきた!!とばかりに、腹をすかせた鬼女たちはついに本性を現し、狂喜乱舞。久々の酒肴が若い男の生き血とあってか、テンションアゲアゲです。完璧なコンビネーションで仕留めた獲物、いざ喰らわん、と維茂たちに襲い掛かった、次の瞬間。

 

 

謎のおっさんが出てきて、鬼女たちを追っ払ってしまいます。

 

この謎のおっさんは『大江山』でも登場した武勇の神様・八幡大菩薩。(石見神楽では『弓八幡』の主人公。) おっさん、オイシイとこ全部持ってくなー。神様だからなー。神楽では手に持った幣で維茂たちを泥酔状態から復活させますが、本当は絶対ビンタしたっしょ。これも維茂の日頃の信奉のお陰かな。どうかな。信じる者は救われる。

 

心優しき八幡大菩薩の活躍によって一命をとりとめた維茂は、授かった神剣を持って鬼女討伐へと向かいます

 

ここから一転、バトルモードに。鬼女も完璧に鬼の面・衣装に様変わり、優美な世界観から火花舞い散る激闘へ、ラストスパートまで一気に駆け抜けます。

 

前半の鬼女の子分戦では「2対2」のオーソドックスな舞を披露。4人が前後左右入り乱れながら剣を交わします。

みんなが真ん中のほうでごちゃごちゃするやつ、あるじゃないですか。ぶつかるー、ぶつかるー、ぶつかりませーん、ってなるやつ*2。あれは単純に前から来る人を左へ左へとよけているだけらしいですね。

まぁ、知ったところで絶対ムリよ、怖いもん。しかも、鬼面って片方の目からしか見えてないんだってね。すごくね!?なんであんなガンガン踊れるの!?本当に本当に尊敬します。いっぱい練習してるんだろうなー。

 

後半のラスボス・鬼女大王戦は「2対1」のやや変則な3人舞。

鬼女大王がバーンと登場して蜘蛛の糸がジャーンと降って、うむ、贅沢じゃ!!この演出、広島では割とテンプレ化してますよね。いっつも思うんだけど、幕内から鬼が出てくるときに、神がカーテンみたいに蜘蛛の糸を上げててワオ紳士的。まるでお姫様扱い。私も蜘蛛の糸出せるようになろうかしら。

 

せっかくジェントルにエスコートしても、ここが最大の山場派手な大立ち回りを見せなければなりません。

特に「鬼女もの」に関しては、前半部を女形や面の早がえで魅せる分、どうしてもそこに山場が行ってしまい、後半部が単調になりがちという弱点を抱えています。

ここをいかに情熱的に舞うか、かといって激しすぎれば良いというわけではなく、きちんと間を取ったメリハリのある立ち回りが必要で、このバランスが難しいところ。

石見神楽は前半部は割とぽけーっとしててもいい(横暴)ので最後の最後に全力投球できますが、前半部に気を遣う技や所作が求められる分、役者の集中力や疲労度の配分が難しいだろうと思います。なので、一役に二人つける場合もありますが、そうはいかないときだってあるしね…。うーん、胃が痛い…。おなか減ったな…。

 

そういう裏事情も抱えながら、見事、維茂は鬼女大王を打ち取ります。

激闘を見事に舞い切れば、本物の熱演。拍手・歓声・指笛の雨あられ。役者冥利に尽きるなぁ。でも、最後の最後の喜びの舞はぐるぐる回りすぎてふっとぶんじゃないかと思う。ものすごいGがかかってそう。

 

 

そうして維茂は、無事におうちへ帰ったのでした。めでたし。

 

 

 

いかがでしたか、『紅葉狩』。面白いっしょ!!目が離せないっしょ!!

 

今回は広島の神楽をご紹介しましたが、石見神楽と芸北神楽はとっても近い関係にあるので、島根でも広島の神楽が見れるし、逆もまた然りです。

wiki先生によると島根県西部から広島県北部にかけてさかんに行われる神楽は全部石見神楽なんだって。地元民としては全く別物の感覚なので、横暴すぎな気がしますが、それだけ密接な関係が保てている証拠なのかもしれません。

 

特に、石見神楽に見飽きたお年寄りは、年に1回か2回、競演大会で見ることのできる広島の舞いを心待ちにしてる人、多いんだそうな。

 

 

 

広島の神楽は“特別”出演。ぜひ一度、ご鑑賞あれ。

 

石見神楽よりハマっちゃうかもよ??

 

*1:追記:山間部の社中さんで保持演目にされてるところありましたね!勉強不足で申し訳ありません。ただ、広島の様式で舞われているようでしたので、やはり『紅葉狩』は石見神楽と言うよりも芸北神楽固有の演目に分類されると思います。山間部では広島弁を使いますし、文化的には北広島地域とそっくりですよね。買い物もパルコの方が良いものいっぱいありますしね。

*2:「八つ花」のこと。