秋の夜長に勝手に石見神楽を解説しようじゃないか。

島根西部の伝統芸能・石見神楽を妄想と主観で解説してます。ビギナー向け。

【滝夜叉姫】解説しろ!KAGURAオタ 〈実況解説編〉

神楽についての基本知識と『滝夜叉姫』の前情報はコチラ→【前半】

後半から読んでも全然大丈夫です。

 

後半は舞を見ながら解説していきます。(話の流れは各神楽団によって多少違います。)

 

それでは後半・実況解説編、スタート!!

 

 

プロローグ 

冒頭、今にも消えてしまいそうな女性が一人、歩いてきます

このきれいなお姫様が五月姫=滝夜叉姫です。

天慶の乱で父・平将門を討たれた五月姫は、父の仇である平貞盛藤原秀郷を討たんがため都に出ますが、その甲斐なく機会に恵まれません。何としても悲願を果たさねばと復讐に燃える五月姫は、丑の刻参りで有名な貴船の社へと赴きます

ここらへんの身の上が最初の五月姫の口上=セリフで語られます。そもそもこの所に進み出でたる者は…」以降に注目神楽団によっては分かりやすく平将門が討たれるシーン→五月姫登場って舞うところもあるかな。

女の憎念=貴船=丑の刻参りは一つのセットみたいなもので、頭に蝋燭つけた女の人が杉の木に五寸釘打ってカーン、カーン…っていうの見たことないですか?まさにアレです。こわいよー。*1

月姫はこの貴船の社に七日七晩の願を掛け、ついに最終日・7日目の夜を迎えます。真っ暗な闇の中、明かりは手元を照らす灯だけ。満願成就まであと一歩と、社まで急いで向かう姫の喜びに逸る気持ちと、寂しく切ない気持ちとが交錯して、うーん哀しい。

 

無事に社へと辿り着いた姫は、貴船の神に祈りを捧げます

 

そして段々、段々と姫の様子がおかしくなっていき…とうとう鬼になってしまいます

この姫から鬼女へ変わるところが見所ポイント。広島は本当に上手なんだよなぁ。

満願成就の末に神通自在の妖術を手に入れた姫は、これより名を滝夜叉姫と改めて、仲間の軍勢を集めるべく下総国猿島=今の茨城県へと急ぎ立ち帰ります

 

序盤(登場人物)

ところ変わって、二人のイケメンが登場。

幣」というティッシュのついたはたきっぽいものを持ってる方が偉い人・大宅中将光圀(おおやのちゅうじょうみつくに)、お付きの人は山城さんが多いけど色々だなー。光圀はただの武将ではなく陰陽道に精通したスゴ腕のハイブリッド武人

妖術を使い朝廷転覆を謀る大軍勢を成敗せよ、との勅命を下された二人は、滝夜叉姫のアジト・相馬の城を目指し、一路下総国へと下って行きます

 

囃子が鬼囃子に変わると、怪しすぎてガラの悪すぎる二人が登場お゛りゃあ゛!!

この二人は夜叉丸・蜘蛛丸と言う滝夜叉姫の一の子分。都より討伐隊が出たとの知らせを受けた二人はダッシュで主の元へと帰ります。あ゛いさぁあ!!!!!

彼らは野盗とかそういう感じなので、鬼でもないし人でもない、姫の手下で補佐でもあるっていう本当に難しい役どころなんですよね…。この微妙なニュアンスをどう匂わせるかで本演目の格が決まる、と思ってる!!い゛ぃよいしょぉお゛!!!!!!

姫の御前へと到着した二人は火急の知らせを伝えます。「何条何事にて候」*2は「どした~?」って意味。

この知らせを聞いた姫は驚くどころか「返り討ちにしてやるわ。」と息巻きます。貴船の神から授かった妖術に敵うものなどない、父の仇を討つほんの始まりにすぎないと。

中将光圀を打ち滅ぼすため、姫は手下たちに合戦の準備をせよと命じます。

 

ほどなくして、決戦の場・相馬の城へと辿り着いた光圀一行は、滝夜叉姫の館へと攻め込みます。

攻め込む前に踊ってんなよ、早く攻め込めよって思うかもしれませんが、ここが割と重要ポイントで、「絶対勝てますように!!」という神様への祈願と、ラスボス戦への道のりと高まりを表現しています。神楽たる所以なので省いてはダメ。

 

バトルシーン

そして、ラスボス・滝夜叉姫と手下がその姿を現します。

神楽では某死神漫画とおなじで戦う前に「名乗り」を上げなければなりません。(そういや師匠は北広島出身だったような…?)「いざ勝負、勝~負!!」は「レディー、ファイッ!」ってことなんですけど、石見神楽では「いざや立ち合い、勝負を決せん!!」って言う。小まめ知識。

 

前哨戦・夜叉丸&蜘蛛丸戦は神楽の基本形「2対2」の戦い。

薙刀vs刀の変則的な勝負から、刀vs刀のガチバトルになるとこありますよね。イイ!!神楽って難しそうに見えるんですが、左に回って右に帰るの繰り返しなので意外に単純です。難しいけどね。

途中、全員の衣装が突然バッ!!てなるのは「肩切り」と呼ばれる芸北・石見神楽特有の衣装を着てるから。この仕組みは、まず肩の紐を外し、グルグル回るときの遠心力で裏地を広げています

何年か前の紅白歌合戦でTM様と奈々様がコラボしたじゃないですか。あのとき奈々様がお召しになっていた衣装がまさに「肩切り」と同じ仕組みになってました。奈々様に遠心力が重要だと教えて差し上げたかった…。

 

そんなこんなで、割とあっさり手下の二人は殺られてしまいますそぃやぁあ゛!!

 

そしてついに、最終ラウンド・滝夜叉姫戦

石見神楽はタイマンかダブルスが基本なんですけど、芸北は「2対1」が多いですね。こっちの方がオーソドックスなのかなー。*3

突然、滝夜叉姫が一瞬で鬼に変わってビックリしますよね!!これは芸北の十八番の「面の早がえ」といって、広島の得意演目である「鬼女もの」では必ず見せてくれるんですよー!!

このトリックは、面の内側に口でくわえる部分がついた「くわえ面」という特殊な面を使用し、懐など死角に隠した面を一瞬で付ける難易度の高い技です。分かってても見切れないんだよなー。みんなMr.マリックなのかなー。

 

ここからの戦いは、ほんともう、息を止めて、見てください。

 

薙刀と妖術を自由自在に操り、鬼と化した姫はたった一人きり戦い抜きます。

が、力及ばず光圀に切り伏せられ、妖術も底を尽き、元の姿へ戻る姫。 

もはやこれまでと最期の刻を知った姫は、泣きながら光圀の一太刀を浴びます。

こうして、滝夜叉姫は父の仇を晴らせぬまま、無念の内に息を引き取ったのでした―――。

 

 

少し一言

………哀しい。ただただ哀しい。

 

実を言うと、広島のこういうザ・悲劇チックな演目はあまり好きでないのです。神楽はスカッとするもの!!勧善懲悪!!ザ・王道!!が好きなので。現実は大変だから、せめて神楽はハッピーエンドでいて欲しい。

 

だから、『滝夜叉姫』は解説しないだろうなぁと思ってました。

 

この演目を初めて見たのはもう随分前のことですが、あのときの衝撃、というかもやもやした感情は今も鮮明に思い出せます。

暗闇の中、白く、ぼう、と浮かび上がる姫の姿。命を賭して戦ったのにあっけなく散って行った姫の最期。夜神楽では見られない照明の演出が加わった『滝夜叉姫』は、もはや神楽の域を超えて、一つの物語として見入った記憶があります。

ただただ哀しかった。その後の演目が頭に入ってこなかった。

あれから、あまり好んで見ないけど、それでも好奇心に負けて何回か見たけれど。

あの日、あの時のように胸を打つ『滝夜叉姫』に、私はまだ出会えていません。

 

石見神楽はもちろん大好きなのですが、私は芸北神楽もほんと小っさい頃から見てきたので、広島の舞も大好きです。その芸北神楽がテーマのドラマが全国放送で見れるだなんて、一ファンとしてとってもとっても喜ばしく思います。

神楽の魅力に地元の人以外が気付いて、面白いよね、もっとたくさんの人に面白いって言ってもいい?と認められたような、なぜか誇らしいような気分になりました。

 

もっと、もっと、神楽の魅力が地元の人にも、いろんな場所にも届いたらいいなと思います。

 

 

それでは来る11/30(水)夜10時~「舞え!KAGURA姫」BSプレミアムにて放送です!!

 

 

楽しみ!!!

 

 

*1:貴船神社のご祭神・高龗神(たかおかみのかみ)は超パワーのある女神さまで龍神さま。平安京の雨乞いはずっとこの場所で行われていました。一方、強力な呪詛神としても有名で、「貴船の丑の刻参り」は数多くの文学作品に影響を与えています。このように、「どうにもならない事をなんとかして欲しい」という望みの最後の砦として「貴船の願掛け」は描かれてきました。一見、恐ろしそうな印象を受けますが、行き場のない想いを聞き入れて下さる、やさしいやさしい神様だと思います。

*2:マネしたい人用。「なんじょう、なにごとにてそうろう」

*3:わたし調べによると、特に新舞に関しては「鬼3対神2」からの子分戦「2対2」→大将戦「1対2」の形が超多い気がします。ドラクエのボス戦みたいな感じで良いですね。まぁ、ドラクエなら先にボス倒す派だけどね。