秋の夜長に勝手に石見神楽を解説しようじゃないか。

島根西部の伝統芸能・石見神楽を妄想と主観で解説してます。ビギナー向け。

【小ネタ】ねぇ、知ってる~?

大江山の解説してから早1か月…。めっきり寒くなりましたね…。寒いと書く気が起こんなくて…、なんかテンションも10度くらい下がっちゃって…。と言いながら、今年は夜神楽にも行けたし、お金払って神楽見たし、ブログのネタ集めしながら割とちゃんと神楽充してました。他は充してないので、せっせと書いていきたいと思います涙。

 

大江山の解説を書くに当たり、DVDやネットで「大江山」関連の演目を見まくってたんですが…、なんか…、全然違うね。広島の神楽と内容が全然ちがーう。鬼3匹しか出ないし、蜘蛛の糸はバーってなるけど蜘蛛自体がビャーって出てくるところないし…。大江山ってのはパーリーピーポーですよ、とあれほど力説していたにも関わらず、広島では『戻り橋』『羅生門』の方が花形なんですね…。「面の早替え」もあるしね。ところ変われば、こんなにも違うんだなぁ~。

 

ということで、今回はひとくちに「神楽」といっても色々あるよってことをご説明いたしましょう。

 

地元民が言う「神楽」とは、実は大きく4つに分類されます。

一つめは、我らが「石見神楽」。島根県石見地方に伝わる、激しく力強い神楽

二つめは、「芸北神楽」。広島県北部で盛んな、歌舞伎と神楽を融合した豪奢な神楽。

三つめは、「大元神楽」。知る人ぞ知る、石見地方で脈絡と伝承されてきた奉納舞

四つめは、「出雲神楽」。神々の国・島根県出雲地方に伝わる、厳かな古式の奉納舞

 

 

「神楽」とは、その土地の神様に一年の感謝を捧げる儀式=神事から派生しました。 

なので、歴史の長さで言うと「出雲神楽」が一番長く、しかも古来のままの様式を現在にとどめています。超有名なのは、鹿島町にある出雲二宮・佐太神社の「佐陀神能。(神在月に全国の神様が訪れるのは出雲大社だけでなくて、佐太神社にもお越しになるんですよ。知ってた?)能の影響を受けたといっても完全に神事の一つで、神々に捧げる舞です。

そして、同じく神事の一環として石見地方で受け継がれてきたのが「大元神楽」石見版古式神と言ってもいいでしょう。多少突っ込んだ補足をすると、大元神楽は荒神神楽系統であり、厳しい自然から人や田畑お守り下さるよう、その土地の神様=大元さんをお祀りしてきた農民中心の信仰です。地元の神社で毎年祭事として行われるところもあれば、決まりによって2年、3年、6年に一回のところもあります。 

上記の2つは「四方拝」「剣舞」「御座舞」など演目の類似も見られますが、衣装や囃子は全く別物。テンポはゆったりめですが、徐々に熱を帯びてゆき、神憑りもあるらしい…。すごい…。「出雲神楽」と「大元神楽」は神事をルーツとする奉納舞、神様のための舞。心して鑑賞しましょう。

 

一方、「石見神楽」は温泉や道の駅など神社じゃなくても見れますよね。もちろん、秋祭りでは奉納神楽として各所の神社でも舞われますが、「鬼舞」=バトルものの演目が中心で、内容も各神楽団によって様々。形式に捉われず自由に舞うのが現在の「石見神楽」の形態です。

儀式舞はスローテンポなので、面白いと思えない人がどうしても多いんですよね。しょうがないんだけど。なので、儀式舞から一歩進化して、せっかく年に一度なんだから神様と一緒にみんなで盛り上がろう!!というのが石見神楽、ひいては石見人の気質。今やほぼ完全に商業ベースに乗っかってブームになってますが、古いものを途絶えさせないようにするための伝統の一つの形です。

 

さらに、神楽の商業ベースを加速させたのが「芸北神楽」。熱狂的な追っかけファンもいっぱいいるし、広島の競演大会では座敷に弁当までつくという、まるで大衆演劇みたいな感じです。(ちなみに一番良い席はバカ高くて引く。)

能や謡曲、歌舞伎をベースにしているだけに、基本、面をつけず白塗りで舞い、「姫もの」「鬼女もの」=女形がメインの演目が十八番なところが多いです。舞台も衣装も派手、物語はドラマチック。石見神楽は単純なので「鬼たおした!めでたし!スカッとした!」って感じですが、広島は悲劇ものやお涙頂戴ものもあって、「か、神楽なの…?心が痛むんだけど……」ってなる。見せ場も分かりやすいし、石見神楽ならダレまくる部分も容赦なくバッサリ切ってある*1ので、本当に面白いし見やすいです。石見神楽に見飽きたお年寄りたちは、広島好きな人いっぱいいますね。まげなけぇのぉ~。

 

この二つは儀式=形式よりも演出に重きを置くので、商業ベースでないとやってられません。逆の理由も然り。儲かればこそできることも増える、活気があればこそ挑戦できる。その分、各々が切磋琢磨しているため、ここ数年の進化には目を見張るものがあります。衣装もキレイになったし。このまま活気があればいいなー。

 

ちなみに私の好みはというと、大元神楽よりの石見神楽ですかね。あんまりきんきらきんきらしたり、せばしいのは苦手なもので。地味な衣装着て、地味に舞ってるの好きです。年とったからかな。あ、でも広島の神楽モノマネめっちゃ好き!!ななめのおじぎすごい好き!!今ハマってるのは、「ンのぼりくるゥ、のぼりくるゥ!!」。すき。。。

 

 

最後に、石見人の気質をうま~く表した和歌をご紹介。

ちはやふる ここも高天原なれば 集まりたまえ 四方の神々」

神様も人間もみんな一つになってお祭りを楽しむ感じがいいですよね。ひょっとすると、出雲地方よりも神様との距離が近しい気もします。石見人の調子乗ってるパーリーピーポー感滲み出る一首です。 

 

こんな感じで、ひとくちに「神楽」と言えどいっぱいあるんですよ。知ってた??

そういや、夜神楽シーズンが一段落ついて11月は共演大会シーズンですね。お気に入りの神楽、神楽団に出会えるといいですね!!もちろん再会できるのもいい!!

 

 

*1:石見神楽はそうは言っても儀式的な部分も大事にするので、基本的に口上や舞をはしょりません。だから口上ばっかでつまらないシーンや(特に『黒塚』)、なんかずっと踊ってるシーン(特に『黒塚』)はダルダルで誰も見てない(特に『黒塚』)んですけど、そのシーンこそ儀式的に重要だったり、教訓や作法を学ぶ大事なシーンだったりするので、そういうところは手を加えずにそのままにしておく、というスタンスで舞う社中さんが多いです。特に『五神』はその最たる演目です。(『黒塚』ではない。)