【天岩戸雑学】ジレとチョッキとベストの違いとは
やっぱ、ネタがあればはかどりますね。ちゃんと神楽見に行くべきだなー。書きたいことは山ほどあるんですが、低いテンションじゃ真面目でつまらん文章になってしまうので、この調子でさっくり行きたいところです。
ただし、ハイテンションに慣れてきたのか、文章が長くなってやばいです。さっくりやりましょう。さっくりと。
前回の記事で『天岩戸』の面白さをお伝えしたつもりですが…、ただただ神様たちをイジりまくって終わった感が否めません…。アレ…?面白さ…とは…?私の中のスサノオが爆発したということにしておこう…。
では、気を取り直して雑学スタートです。
鬼舞と違ったユニークな面白さが魅力の『天岩戸』。この演目の一番の見どころといったら、やはり登場人物の多様さに他ありません。
神楽は単純なので、鬼と神の対立構造をベースとしてます。良いヤツと悪いヤツ。なので、大抵、偉そうな人と悪そうな人しか出てきません。
しかし、『天岩戸』に関しては、女神・巫女・翁・神・男と非常にバラエティ豊かなメンツでお送りしています。それだけ日本の神々はキャラが強いってことなんですが、こと神楽においては、色んな衣装や面、舞や所作を一度に見られる贅沢な演目です。実は地味演目じゃないんだよ*1。
まずは、天照大神から。
天照大神は女神なので、神楽だと「姫」に当たります。若い女の人はみんな姫。「姫面」に白の狩衣、紅の袴をお召しになっており、この衣装はどこの神楽団もほぼ同じ。
ただ、手持ち道具がまちまちで、冒頭は「幣」・「鏡」、クライマックスはフラフープにヒラヒラがいっぱいついてる「茅の輪」を持って出てくる場合が多いですかねー。
このヒラヒラは実は炎を表しているので、丸くて燃える=太陽を連想してこのシーンで使ってるのかな。「茅の輪」といえば『鍾馗』の須佐之男命が持つ武器で、目に見えない病魔を映し出すスコープにして、病を焼き払う縁起物。「茅の輪くぐり」とかしたことないですかね、病魔退散・病気平癒にご利益がありますよ。
姉弟でオソロだね!!っていうと怒られちゃいそうなので、「茅の輪」ver.の荘厳な感じも良いけど、私はカワイイ「鏡」ver.を推したいな。アマテラスといえばやっぱ鏡だしね。
また、姫といっても高天原の最高神ですので、厳かな所作が求められます。が、初心者とか女の子でもガンガン入れるらしいですね。入ったり出たりするだけだし、何より舞わなくていいしね。アゴ休憩(=冠を固定させるためにアゴに紐が食い込む拷問のハーフタイム、の意。詳細は【解説】参照。)もあるし、おススメです。←?
この流れで、次は宇津女命。
面は「姫面」、衣装は天照大神と同じような狩衣に袴or女物の着物の上に白い狩衣が多いですかね。全身オレンジとかもあって、ほんと、センスの見せ所です。いいですか、センスの見せ所ですよ。
宇津女命は女神ですが、神を呼び寄せる巫女の特色が強いので右手に「鈴」を、左手に「三叉矛」(さんさほこ)を持ちます。
矛といっても武器ではなく祭礼用の道具の一つで、正式名称は「祭矛」と呼ぶらしい。なんで戦わないのに武器持ってんのかなーって気になってたんだよね!男性社会の荒波と戦ってんのかなーとか、自分に負けない!とか…。色々戦ってるものありそうだからかな…。
頭には金の冠かショート烏帽子を被って、「鈴」をシャランラしながら踊ります。宇津女命はアゴ休憩がないのでホント大変そう…。アゴ…痛いよね…。赤くなるよね…。
ウズメについて書きたいこといっぱいあったはずなんだけど、なんかアゴのことしか考えられないので次に行きます。
そんでもって、天児屋根命と布刀玉命。
コヤネはおヒゲがフサフサな「翁面」を必ずつけますが、衣装はジジイ感溢れるグレーっぽい地味めなもの、「まだまだ現役じゃい」ときんきらしたもの、色々です。老爺役なので小柄な人、および中腰がしんどいので若い人が中に入ることが多いそう。私は小さくてモフモフしててかわいいから統一感のある地味ジジ派だな。
フトダマはまあまあなおヒゲの「翁面」か、あっさり塩顔の「神面」の2パターンですかね。「翁面」だとWジジイがどうしよーってなってかわいいけど、「神面」で若返った途端に舎弟感増すよね。完全にコキ使われてんな、コリャ。衣装はコヤネ同様、色々です。
お二人とも、ロング烏帽子に「幣」と「鈴」を持ってます。先っちょにティッシュをふんだんにあしらった棒が「幣」。本当は、竹の棒に半紙か和紙が付けてあります。神社で祈祷してもらう時とか絶対見たことあるはず。神社には必ずある祭具の一つで、厄や禍を祓い清めます。ちなみに神楽で「幣」を持つことが出来るのは神様と天皇さまの偉い人だけ。
やっと最後に、天手力男命だー。たーぢーかーろーおー!!
タヂカロオの面は一応、フトダマと同じ「神面」に分類されますが、濃厚ソース顔だし何よりコワモテだし同じでいいのか?って思うよね。「神面」は翁・天狗以外の男の神様ならほぼ必ずつけるので、カテゴリーが広すぎるんですよ。なので、「神面」の中でも特に男らしさが強調されるものは「男面」と言ったりします。この「男面」も男性ホルモンがドバッてなっちゃってるのと、そうでないのと細かく分類があるので、それはまたいつか。つまるところ、タヂカロオは「男面」ってことですな。
衣装は色々あるけど、どうなのかなー。男らしい=武人的なイメージからか「陣羽織」という肩がサイヤ人みたいなチョッキ?今風に言うとジレ??着てることが多いかな。(サイヤ人みたいなジレって、、、化学反応起きた……!!)
短刀持って天岩戸をこじ開けようとしますよねー、だが私はこの演出反対派です。タヂカロオは手の神様なので、素手でいかんかい!!ってなる。なので短刀は道具にいれてあーげない。
そんで、引きこもりから無事脱却したアマテラスが幕内にハケると、最後の最後に全員面を外し、扇に持ちかえて、突如踊り狂います。
え?どゆこと…?テンション高すぎない…?って若干引くかもしれませんが、お話的にはアマテラスが出てきたところで終了していて、このダンシングタイムは「舞手が八百万の神々に感謝する喜びの舞」=カーテンコールとなっています。なので、神様役を演じるための面を取って、一舞手として踊るわけですね。まさにミュージカル。
こんなもんかな。
自分で書いててあれだけど、ホントに見どころいっぱいある。面白いね、『天岩戸』。
この神楽は奉納舞色が強めなのでハッキリ言って途中ダレちゃうんですが、こういうところに注目してみると、また違った面白さがあるんじゃないかな。
あと、今回は初めて調べものしながら書いたのでめっちゃ勉強になりましたー。衣装とか神楽面とかちゃんと知らないこといっぱいあって面白かったです。情報がとっちらかってたので、まとめて記事にできたらいいなと思います。
でも、しばらくはいいや。
【天岩戸解説】レリゴー・レリゴー、岩戸あけるのよ
さむい。さむいしかない。冬越せそうにないです。みなさん、いかがお過ごしですか。
島根の冬は東部に行けばししり寒い、西部に行けば風が冷たい、山間部に行けば凍みる感じで逃げ場がありません。やだなー。日照時間も短いし。やだなー。
しかしながら世間は紅葉の季節、行楽シーズンなんですってね。
紅葉シーズン逃したら次は来年になっちゃうので、良いお日和に『紅葉狩』でも書いちゃおうかしら、石見神楽じゃないけど。などと考えておりましたが、寒いので却下です。第三弾は『天岩戸』です。
第一弾『八岐大蛇』の回でちょっと触れました、大蛇の物語の前日譚と申しましょうか、発端となった物語です。この演目自体は『恵比寿』と並んで大変縁起の良い神楽ですが、まぁー、ハッキリ言ってちょっと面白いよね。引きこもりを引っ張り出すために神様たちがワイワイして、最後力づくで出しちゃうところがサイコーにロックです。結局力技かい。日本の神様はみんなユニークなので大好きです。
こんな感じで、見てる方としては「おめでたいー」とか「おもしろいー」とか笑って見られるんですが、やってる方は意外に中々しんどいらしいです。この神楽は立ち回りがなくセリフで物語を進行させる「口上舞」なので、それを覚えるのも一苦労、バトルシーンもないので舞で魅せるのも一苦労、そして大概、夜神楽ではみんな見てない、てゆうか来てないって何だか涙が出てきたよ。。。
『岩戸』面白いんだから!ナメてると痛い目見るから!それでは下剋上、スタート!!
事の発端は天上の神々の住まう地、高天原でおこります。
高天原を統べる最高神にして、地上をあまねく照らす太陽の神・天照大神(アマテラスオオミカミ)は弟神・建速素戔嗚尊(タケハヤスサノオノミコト)の度重なる悪行に耐え兼ね、天岩戸にお隠れになってしまいます。
通常、アマテラスが唐突に出てきて、唐突にどっか行っちゃうんですが、内心はらわた煮えくり返ってますからね。注意です。女のひと怒らせたら厄介ですよ。
アマテラスは、先っちょにティッシュがついたはたきか、オサレなところでは手鏡を持っておられます。私的には、巫女でない女神は鏡を持っててほしいんですよねー。鈴は神様への呼び鈴ですから、神様自身が持つのはちょっと変。なので、幣か鏡を持っていて、頭にリッチな金の冠をかぶっている女の神様=アマテラスです。つまり、リッチピーポー=アマテラス。
次におもむろに登場するおじいさんはただのジジイではなく、天児屋根命(アマノコヤネノミコト)という祝詞の神様です。春日大社の御祭神・春日権化の方がよく知られていますかね。超有名な神様。なのにセリフは長いわ、中腰しんどいわで一番やりたくない役らしい。
そんなふとももプルプルなコヤネから、パニック中の高天原の様子が語られます。
世は一転、常闇となったYouはshockな世界をどうにかしようと、「ねぇ、ドアを開けて~」と懇願するもガン無視のアマテラスに困り果てた(´・ω・`)ショボーンなコヤネは占い=太占(ふとまに)の神様・太玉命(フトダマノミコト)を召喚します。祝詞と占いから分かるように祭式にまつわる神様で、昔の祭式=政治ですから、側近中の側近ということが伺えますね。
そんでもって、話し合いの結果ナイスな案が思いついたので、フトダマをパシリ使いに出して、天宇津女命(アメノウヅメノミコト)と天手力男命(アマノタヂカロオノミコト)に助力を願います。
この案というのは、
『岩戸の前でレッツパーリーしたら、きっとさみしがりやさんなアマテラスは外を見てみたくなって扉をちょっとだけ開けるハズ。その瞬間タヂカロオが扉を全開にして二度と引き込もれないようにしてやるんだ、いいな分かったか?ウズメは神様たちを盛り上げる接待係だ。これはお願いではない、命令なのだよ…。』
という手段を選ばないユニークな作戦。日本の神様はなりふりかまわないユニークで良いですよね。そういうとこ好き。
実はこれを考えたのはコヤネでもフトダマでもなく、高天原のプロフェッサー・思金神(オモイカネノカミ)が作戦立案、指揮していました。この神様は賢者にして参謀の役割を担う翁で、神楽のコヤネは姿も役割も思金神まんま。神楽で描かれているシーンでの本来のコヤネの役目は、アマテラスを岩戸から引きずり出す際に祝詞を唱え、鏡で光を反射させて目つぶし目くらませしたことだけです。フトダマもちょ、まぶしッてさせただけ。お二人とも、役得ですな。
ちなみにこのとき作られた勾玉は日本三大神器の一つ、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)。鏡も同じく、八咫鏡(やたのかがみ)です。すごーい。勾玉は玉祖命(タマノオヤノミコト)、鏡は伊斯許理度売命(イシコリドメノミコト)がお作りになりました。コレ知ってる人あんまいないよね。ぜひ覚えてほしい…。
そうして、場も整った、役者もそろった、いざ作戦実行!です。
まずはウズメのダンシングタイム。優美かつ情熱的な舞を披露します。ちょっと小ぶりな冠か、小さめの金の烏帽子を被って鈴をしゃんしゃんジングルベルするのが、アマテラスのお世話係だったといわれるウズメです。
頭の冠、すごいきれいですよね。キラキラ。ただしアゴがめっちゃ痛くなるよ。実はあの冠、重たいわ高さもあるわでめっちゃ気ぃ遣います。しかもズレ防止のためにアゴでギュギュギュッと紐で結んで固定してあるのでもうただの拷問。なのにガンガン踊りまくってるし、広島とかイナバウワーしちゃってるし大丈夫!?とれない!?とれない!?ってなるわ!!あと、紐が食い込んでそうで、痛いよー痛いよーって思いながら見てます。鈴もね、案外重いんですよ。
そんなつらさを感じさせないほど、神楽では美しいウズメですが、神話だとストリップしてたんだって。そんで神様たちがげらげら笑って扉が開いたんだから、なんか神話って、エグイ。人間の本質が如実に描かれててね。
この後、ウズメは芸事の神様として出世し、天孫降臨では神々の先導役に抜擢されました。ハッキリ言って、現代ならセクハラかつパワハラ、つーか犯罪なんですが、毅然と受けて立ったこの神様の勇気と情熱には心揺さぶられるものがあります。だから芸事の神様なのか。すごいなぁ。
お次に、これはチャンスとタヂカロオが岩戸をこじ開けようとします。なんかいきなりコワモテの人が出てくるし、お客に背を向けて暴れまくるし、どうしたの…心配…ってなりますが、これは神楽の演出です。
神話では、「ちょ、何で主役がいないのに盛り上がってんの!?」と気になったアマテラスがちょっとだけ岩戸を開けた瞬間、扉を全開にして、ムリヤリ引っ張り出したのは一瞬の出来事。なので、本当は全然暴れまくってません。神楽のイメージと違ってジブリに出てくる男の子みたいな神様なのです。この一瞬のためにイメトレとかしてたんだろうな…。カワイイな…。
そうしてついに、どうにか天岩戸をこじ開けると、中からアマテラスが出て来て、世界はもう一度光を取り戻します。
このシーン、広島の神楽だとホントすごい。照明バーーンッ!後光がブワァーッ!ちょ、まぶしッ!ってなる。初めて見たとき、なんかすごすぎて逆に笑いが止まらなかったです。神話だと「ぺいっ」って感じで引きずり出されるから、ギャップがすごくて。ダメだ、やっぱ今も笑うわ。
このお話の天岩戸とされる場所や史跡は意外にも全国各地にあるようです。また、類似の物語も世界各地にあり、日本のどこかの山間部にも独自の伝承があると聞きます。
自然の恵みなくして生きてはいけないことを、日本人は良く理解してきたからこそ、秋が来れば実りに感謝し、来る一年の豊作を祈る。『天岩戸』は神様たちの姿がユニークに描かれていますが、その実、日本人が大切にしてきたものを分かりやすく表現しているのかもしれません。
何はともあれ、無事に出てきてよかった、世界も光に包まれて良かった。やー、めでたし、めでたし!ヨカッタネ!と思っていると、最後の最後でコヤネから一言。
「スサノオの身ぐるみ剥いで、財産没収して、身なりボロクソにして追放な。」
うひょーー!!きっつ!!コヤネ氏きっつ!!まぁ、命があるだけマシなのか??いやいや、野垂れ死ね!!って言ってるようなもんだからね…。自業自得だけど。
でも、この後伝説のDQNは伝説のヒーローになるんだから、人生何が起こるか分からないものです。(この後のスサノオについてはこちら→【大蛇超訳】)
結びに、神楽の最初に大太鼓が語るプロローグがとってもすてき。
「八百万の神遊び これぞ神楽の初めなる」
ほほーう。なるほど、なるほど。って気分になりませんか。良いよね、この言葉。
いやー、てゆうか、もうホント寒い。カムバック太陽!!
まぁ、夏になったらなったで暑くてイヤになるんだけどね。
【小ネタ】ねぇ、知ってる~?
大江山の解説してから早1か月…。めっきり寒くなりましたね…。寒いと書く気が起こんなくて…、なんかテンションも10度くらい下がっちゃって…。と言いながら、今年は夜神楽にも行けたし、お金払って神楽見たし、ブログのネタ集めしながら割とちゃんと神楽充してました。他は充してないので、せっせと書いていきたいと思います涙。
大江山の解説を書くに当たり、DVDやネットで「大江山」関連の演目を見まくってたんですが…、なんか…、全然違うね。広島の神楽と内容が全然ちがーう。鬼3匹しか出ないし、蜘蛛の糸はバーってなるけど蜘蛛自体がビャーって出てくるところないし…。大江山ってのはパーリーピーポーですよ、とあれほど力説していたにも関わらず、広島では『戻り橋』『羅生門』の方が花形なんですね…。「面の早替え」もあるしね。ところ変われば、こんなにも違うんだなぁ~。
ということで、今回はひとくちに「神楽」といっても色々あるよってことをご説明いたしましょう。
地元民が言う「神楽」とは、実は大きく4つに分類されます。
一つめは、我らが「石見神楽」。島根県石見地方に伝わる、激しく力強い神楽。
二つめは、「芸北神楽」。広島県北部で盛んな、歌舞伎と神楽を融合した豪奢な神楽。
三つめは、「大元神楽」。知る人ぞ知る、石見地方で脈絡と伝承されてきた奉納舞。
四つめは、「出雲神楽」。神々の国・島根県出雲地方に伝わる、厳かな古式の奉納舞。
「神楽」とは、その土地の神様に一年の感謝を捧げる儀式=神事から派生しました。
なので、歴史の長さで言うと「出雲神楽」が一番長く、しかも古来のままの様式を現在にとどめています。超有名なのは、鹿島町にある出雲二宮・佐太神社の「佐陀神能」。(神在月に全国の神様が訪れるのは出雲大社だけでなくて、佐太神社にもお越しになるんですよ。知ってた?)能の影響を受けたといっても完全に神事の一つで、神々に捧げる舞です。
そして、同じく神事の一環として石見地方で受け継がれてきたのが「大元神楽」。石見版古式神楽と言ってもいいでしょう。多少突っ込んだ補足をすると、大元神楽は荒神神楽系統であり、厳しい自然から人や田畑お守り下さるよう、その土地の神様=大元さんをお祀りしてきた農民中心の信仰です。地元の神社で毎年祭事として行われるところもあれば、決まりによって2年、3年、6年に一回のところもあります。
上記の2つは「四方拝」「剣舞」「御座舞」など演目の類似も見られますが、衣装や囃子は全く別物。テンポはゆったりめですが、徐々に熱を帯びてゆき、神憑りもあるらしい…。すごい…。「出雲神楽」と「大元神楽」は神事をルーツとする奉納舞、神様のための舞。心して鑑賞しましょう。
一方、「石見神楽」は温泉や道の駅など神社じゃなくても見れますよね。もちろん、秋祭りでは奉納神楽として各所の神社でも舞われますが、「鬼舞」=バトルものの演目が中心で、内容も各神楽団によって様々。形式に捉われず自由に舞うのが現在の「石見神楽」の形態です。
儀式舞はスローテンポなので、面白いと思えない人がどうしても多いんですよね。しょうがないんだけど。なので、儀式舞から一歩進化して、せっかく年に一度なんだから神様と一緒にみんなで盛り上がろう!!というのが石見神楽、ひいては石見人の気質。今やほぼ完全に商業ベースに乗っかってブームになってますが、古いものを途絶えさせないようにするための伝統の一つの形です。
さらに、神楽の商業ベースを加速させたのが「芸北神楽」。熱狂的な追っかけファンもいっぱいいるし、広島の競演大会では座敷に弁当までつくという、まるで大衆演劇みたいな感じです。(ちなみに一番良い席はバカ高くて引く。)
能や謡曲、歌舞伎をベースにしているだけに、基本、面をつけず白塗りで舞い、「姫もの」「鬼女もの」=女形がメインの演目が十八番なところが多いです。舞台も衣装も派手、物語はドラマチック。石見神楽は単純なので「鬼たおした!めでたし!スカッとした!」って感じですが、広島は悲劇ものやお涙頂戴ものもあって、「か、神楽なの…?心が痛むんだけど……」ってなる。見せ場も分かりやすいし、石見神楽ならダレまくる部分も容赦なくバッサリ切ってある*1ので、本当に面白いし見やすいです。石見神楽に見飽きたお年寄りたちは、広島好きな人いっぱいいますね。まげなけぇのぉ~。
この二つは儀式=形式よりも演出に重きを置くので、商業ベースでないとやってられません。逆の理由も然り。儲かればこそできることも増える、活気があればこそ挑戦できる。その分、各々が切磋琢磨しているため、ここ数年の進化には目を見張るものがあります。衣装もキレイになったし。このまま活気があればいいなー。
ちなみに私の好みはというと、大元神楽よりの石見神楽ですかね。あんまりきんきらきんきらしたり、せばしいのは苦手なもので。地味な衣装着て、地味に舞ってるの好きです。年とったからかな。あ、でも広島の神楽モノマネめっちゃ好き!!ななめのおじぎすごい好き!!今ハマってるのは、「ンのぼりくるゥ、のぼりくるゥ!!」。すき。。。
最後に、石見人の気質をうま~く表した和歌をご紹介。
「ちはやふる ここも高天原なれば 集まりたまえ 四方の神々」
神様も人間もみんな一つになってお祭りを楽しむ感じがいいですよね。ひょっとすると、出雲地方よりも神様との距離が近しい気もします。石見人の調子乗ってるパーリーピーポー感滲み出る一首です。
こんな感じで、ひとくちに「神楽」と言えどいっぱいあるんですよ。知ってた??
そういや、夜神楽シーズンが一段落ついて11月は共演大会シーズンですね。お気に入りの神楽、神楽団に出会えるといいですね!!もちろん再会できるのもいい!!
*1:石見神楽はそうは言っても儀式的な部分も大事にするので、基本的に口上や舞をはしょりません。だから口上ばっかでつまらないシーンや(特に『黒塚』)、なんかずっと踊ってるシーン(特に『黒塚』)はダルダルで誰も見てない(特に『黒塚』)んですけど、そのシーンこそ儀式的に重要だったり、教訓や作法を学ぶ大事なシーンだったりするので、そういうところは手を加えずにそのままにしておく、というスタンスで舞う社中さんが多いです。特に『五神』はその最たる演目です。(『黒塚』ではない。)
【大江山超訳】おおえやま
注:いつも通り、脱線・妄想著しいです。大丈夫な方だけどうぞ。
時は平安中期。魑魅魍魎、悪霊跋扈する京では、ある鬼共の噂が耐えません。その姿は面妖奇怪にして、外法を操り、空を飛ぶ――。狼藉を繰り返す鬼共は、首魁・酒呑童子とその腹心・茨木童子が数多の手下を引き連れた凶悪犯罪組織だったのです。一方、鬼の魔手から京の治安を守るべく白羽の矢が立ったのは、当代最高の武人・源頼光。先の戦いで惜しくもこの2匹を取り逃がしてしまった頼光は渡辺綱、坂田金時の精鋭2人を従えて、鬼共が飛び退っていった方角――京の西方・丹波国「大江山」へと急ぎ赴くのでした。
鬼の逃げた方角へ向かう旅すがら、頼光は不思議な夢を見ました。
夢枕に一人のおっさんが立っている夢です。
「私は八幡大菩薩というめっちゃ偉い神様じゃ。かの鬼共はすげー倒すのムズイから、激レアアイテムを進ぜよう。」
おっさんはそう言うと、人が飲めば元気100倍になるけど鬼が飲めば猛毒になるという胡散臭い酒と、身バレしてるのに京人丸出しな格好はないよねアホなの?と、山伏のコスプレを授けてくれました。
目が覚めた頼光はこのことを2人に話すと、緊張のあまり妙な幻覚を見たんじゃないのかと生温かい目で見られましたが、たしかにこの格好では即身バレ確実だろうと、3人はありがたく着替えることにしました。
山伏の恰好をした一行が酒呑童子の根城はどこかと聞き込みしていると、西の岩山・大江山の一角にあるらしいとの噂がありました。早速、大江山の麓まで来てみれば、たしかに山頂に御殿が見えます。中島みゆきが聞こえてきそうな岩山ですが、「そこに山があるから」と体育会系の頼光はさっさと登っていきました。
ようやく酒呑童子の御殿に着いた頃には、日はすでに暮れかかっていました。
コンコン。
「すみませーん、今晩泊めてくださーい、外は寒くて眠れないんですー。」
と敏腕セールスマン・頼光が頼むと、
「いや、ちょっと部屋片付けてないんでムリです。」
とサクッと断られてしまいました。
「ちょっ!!早いよ、早すぎだよ!!話くらい聞いてよ!!」
「そういう田舎に泊まろう的なのはお断りしてまして…。」
「わたしは山で修行する山伏です。修行をしていたらいつの間にか日が暮れてしまい、困っています。なにとぞ、一晩の宿をお貸し願えませんでしょうか…。」
「…え?や、あの、逆に人の話聞いてる!?無視なの!?てゆうか山伏なんだから野宿くらいできるよね!?」
「ああ!!ありがとうございます!!外はもう寒くて寒くて!!ありがたやー!!じゃあ早速、おじゃましまーす!」
「ええ、どうぞどうぞ。何もないところでごめんなさいね…って違ーう!!初対面なのにグイグイ来るなー、怪しすぎるよー、何者ー?ホントに山伏―?」
「………ハハハハ、山伏と言ってもニューフェイスなもんでね、最近まで京にいたんですよー。ほら、京の酒もありま」
「どうぞお入りください。」
「「「えっ」」」
あんなに渋っていたじっちゃんばっちゃん、じゃなくて鬼が「京の酒」と聞いただけでいとも簡単に重く閉ざされていた門扉を開けました。
どゆこと?ヤラセなの?と3人はヒソヒソ話をしながら御殿の中に入っていくと、なかなかブルジョワな広間に通されました。
そこは鬼がいるわいるわ、わんさかガラの悪そうなDQNたちがせっせと陽気にパーティーピーポーの準備をしているではありませんか。
「うひょー…。思ってたよりやっばいとこに来ちまったよ?どうすんのよ??」
「コレ、バレたらソッコー死にますね。てゆうか生きて帰れますかね?」
「ソッコー死ねたらいいけどね、口で言えないようなことさせられちゃうかもよ?」
3人が早々に死亡フラグを立たせていると、奥から地鳴りような声が響き渡りました。
「おい、京酒を運んできたという山伏はこいつらか。」
いつか取り逃がした、宿敵・酒呑童子と茨木童子がそこに立っていました。
「わしは酒に目が無いもんでな。京の酒が一番旨いんだが、最近妙な輩が邪魔してきたお陰で京に寄りつけなくなってしまってなぁ。この酒に免じて、お前らを一晩泊めてやることにしたのよ。」
(((ヤバー!!バレてない?バレてるよね、こいつニヤニヤしてるよ??)))
「はっはっは、久々の旨い酒だ、盛大に宴を開こうぞ。しかしなぁ・・・、お前らの持ってきた京酒、本当にただの酒か?」
(((うっ、うっ、うわぁ~、バレてらぁ~。もう確実にバレてるよォ~。ちゃんと二重テープとかつけまとかカラコンとかしてくるべきだったよぉ~。)))
「ここでは生かすも殺すもわし次第。お前、杯を持て。毒味しろ。この一杯を飲み干せたのなら、楽しい宴会じゃ。そうでなければ…、それはまた一興だ。」
あーあ、死んだ、これ。死んだわ。
毒入ってるっておっさん言ってたしな。適当なコスプレして騙そうなんて悪人のやることだしな。レイヤーさんにも目の敵にされるしな。あんなヤバそうなモン飲むのか…、こりゃもう…、ヤケクソだ。
頼光は、一気に杯を干しました。
コールもしてないのに、まさかの自主的なイッキに皆が驚いています。酒が毒かどうかなんて関係ありません。この量を一気に飲めば急性アルコール中毒で死にます。お供の二人は固唾を飲んで頼光を見つめました。
「だいじょうぶ、この通り、なにも。美味しゅうございました。」
「…ほう。ならば、わしも一杯。…うむ、なかなかに良い酒じゃ。者ども、酒じゃ!」
うおおおぉぉぉ!!と歓声が上がり、そこかしこから手が伸びてきます。旨い、旨いと飲めや歌えの大宴会。広間がダンスフロアに、オオエヤマ・ディスコになっています。ほろ酔い気分の鬼は3人にも飲め飲めと酒を注ぎ、頼光も楽しそうにそれに応えます。
「…頼光様、この酒、大丈夫なんですか。あれだけの量を飲まれたのに…いきなりゲロったりしませんか?」
「ちょ、おま、前から思ってたけど何気に扱い雑だよね?この通り元気だよ。いきなり酒に強くなったんだよ。」
「はぁ…、まぁ、大丈夫そうならいいか。」
「味方が味方に毒味させてたの!?もう誰も信じらんない!!こうなりゃ、ヤケ酒だ!!しょっぱい!!」
3人が注がれた酒を飲み干す頃には、鬼たちは前後不覚、泥酔しきって完全に出来上がってしまいました。
ほど良く酔いの回った酒呑童子は手下たちに呼びかけます。
「そろそろお開きにしようかの、良い宴会じゃった。わしは奥に下がるとしよう。」
しかし、そのとき、
「ちょっと待ったぁ!!酒呑童子!!天皇の勅命によりお前らを退治する!!」
頼光の一声と共に、3人はバッと山伏コスを投げ捨て正体を現しました。
「お、お前たち、あのときのー、あー、誰だっけ?あ、横のお前!!茨木の左腕切ったやつだ!!」
「なんで私のこと知らないんだよ!!ほんといい加減にしろよ!!絶対泣かす!!」
「酒に酔ったとは言え、多勢に無勢。出来るものなら、この首獲ってみるがよい。」
ははははは、と高笑いしながら酒呑童子は奥に下がって行きました。この場をお供の二人に任せ、頼光はすぐさまその後を追います。
広間では綱と金時が手下の鬼たちと戦っていましたが、さすがに数が多すぎます。酒の毒で弱っているとはいえ、きりがありません。鬼の首全ては獲れないだろう、だったら、一匹でも多く道連れにしようーーー。
そう決めた二人に、不思議なことが起こります。
一向に息が切れません。疲れもさほど感じません。一振りごとに力が漲るようです。
(なるほど、『善人が飲めば百人力になる』というのは本当のことのようだ。これならば、最後の一匹まで持つやもしれぬ。)
二人は、一匹、また一匹と鬼の首を獲っていきました。
その頃、奥の間まで辿り着いた頼光は酒呑童子と剣を交えていました。
序盤こそ押され気味だったものの、敵は明らかに消耗しています。あともう少しで勝てる、そう踏んだ頼光の渾身の太刀を、酒呑童子は寸での所で急所から外しました。
「…そうか。やはりあの酒に何か入っていたか。それならば仕方ない。わが忍術、じゃない、妖術をもって制すまで。」
次の瞬間、頭上から夥しい数の蜘蛛の糸が降リそそぎ、頼光の動きを封じ込めました。それどころか、酒呑童子が口寄せした大蜘蛛が頼光の刀を奪い取っていったのです。蜘蛛の糸から必死に脱出出来たはいいものの、丸腰では戦えません。
大蜘蛛はあざ笑うかのように、手の届かない高さにぶらさがっています。
これは、一体どうしたものか。
打つ手のない頼光は、まさかの行動にでます。
その行動とは、“お祈り”でした。
酒の力とアドレナリンのお陰からか、若干ハイテンションになっていた頼光はどっからか根拠のない自信を口寄せし、本日2度目のヤケクソも相まって“お祈り”を捧げることにしたのです。
これには酒呑童子も大蜘蛛もびっくり。普通、思いついても実際やる人なんかいないからです。恥ずかしいから。
けれど、頼光には恥も外聞もありません。ここまで来るためにコスプレしたり、よく分からない何かをイッキしたり、まるで若手芸人のような扱いを受けてきましたから。
自分が将軍で偉い人なんだということを忘れてしまった頼光には、見栄とか色々ありませんでした。
すると、大蜘蛛が少しずつ、少しずつ、地上へと引き戻されていくではありませんか。
頼光の必死な“お祈り”が天に通じ、奪われた刀ごと大蜘蛛が目前に降りてきたのです。懐かしい剣の柄を握りしめ、8本の脚に囚われた刀身を一気に引き抜くと、そのまま一刀に大蜘蛛を切り伏せました。
「童子、覚悟!!」
体裁を全然気にしない頼光にあっけを取られた酒呑童子は、ここにきて体が上手く動かせないことに気付きます。
「お前、正々堂々、勝負、しろやーーー!!」
「うるせーーー!!こちとら、人間として大事なものは捨てたんじゃーーー!!」
いいのかそれで?と言う疑問は、頼光の怒号とともに振り下ろされた刀に喉笛を掻き切られ、消えていきました。
ふぅ、と安堵の息をついた頼光のもとに、綱と金時が駆け寄ってきます。
「たった1匹倒すのに何分かかってんすか!?こちとら70匹以上切ったんですよ!!」
「明日、絶対筋肉痛になります。」
こいつらのほうが人間性どっか置いてきてるわと思いながらも、ようやく悲願の宿敵を退治した頼光は、もう2度とはないであろう激戦を名残惜しく思う気持ちを胸に秘め、いざ、鬼の首を持ち帰らんと、京へと戻っていくのでした。
また大蜘蛛と戦うことになるなど、知る由もせず。
めでたし、めでたし。