【大江山解説②】高等遊民はかく語りき
なんか色々調べてたら約一週間も空いちゃってましたね!!別に解説そっちのけで神楽見てたとかじゃないですから!!解説するためにリサーチしてきただけですから!!視察ですから!!…よし、言い訳はこのくらいにして、今回は真面目に解説書きます。
『大江山』について、の続き。
この記事書くにあたり、一応適当なものは出せないので一応DVDを確認してみたらば、ん?スペクタクル・ファンタジィ足りなくない??…なにこれ…(混乱)ってなったのが解説が2つになった理由です。うーん、でもー、調べてみても全然スッキリしないよ。今回は消化不良かつローテンションでスタートです。うーーん。
まず、わたしが何をそんなに疑問に思ってるかというと、
①『大江山』の前日譚である『戻り橋』・『羅生門』の時系列が分からない。
(『戻り橋』→『羅生門』なの?それとも『戻り橋』だけで完結するの?)
②そもそも、腕を取られたのが誰なのか分からない。
(酒呑童子の右腕の茨木童子の左腕だか右腕だかが取られたっていう時点でそもそも分かりにくい。)
っていう初歩的謎。でもこの謎に共感してくれる玄人ファン多いと思うんだなー。
まぁ、単刀直入に結論から言ってしまえば、
色々ある。
これに尽きる。各神楽団によってほんとうにさまざまっていうのがアンサーです。
じゃあ、なんでこんなに色々あるかというと、この神楽自体が能や歌舞伎をもとにしているため、脚色されている部分が多々あるから。
古事記や日本神話を基にした神楽と違って平安以降の物語は創作の幅が広い、と私は勝手に思っていて、どこの神楽団が舞っても大蛇や岩戸がほぼ同じなのに比べ、頼政や黒塚ではかなりバラつきがあるのはそのせいかな?と思っています。
前者は神様に捧げる奉納舞=神事がルーツですが、後者は能や歌舞伎=芸事にインスピレーションを受け神楽化したものなので、面白い方がいいじゃん?って創作するのはそりゃ納得。実際、戻り橋や羅生門をはじめ、滝夜叉姫、紅葉狩などの演目は広島の神楽団が得意としており、これらの演目は後者にあたります。
広島の神楽は面をつけず白塗りで舞う歌舞伎のような神楽なのが特徴。石見神楽でこれらの演目を見ることがほぼないのは、このような理由からでしょう。夜神楽でも『大江山』は鉄板なのに対して、『戻り橋』や『羅生門』は競演大会で広島系の神楽団が舞っているところしか見たことがありません。
以上をみてみると、①の時系列がまちまちで、『戻り橋』が先なのか『羅生門』は後なのかよく分からないという疑問、この2つのお話が1つにまとめられていることがある理由、②の腕を取られたのは酒呑童子なのか茨木童子なのかという謎に対して、一応回答が出せそうです。
現時点での結論では、より面白くしようと各神楽団で脚色がなされていった結果、このように様々なあらすじが出来た、ということにしておきましょう。
では、本当はどうなのか。
神楽の元になった能や歌舞伎ではどう描かれているかと言うと、
『大江山の戦いから逃げ落ちた茨木童子は、一条戻り橋で女に姿を変え渡辺綱を襲ったが腕を切られる。その後、義母(伯母)に化け腕を取り返し愛宕山に飛び去った。』
…って、前日譚でもなんでもねーじゃん!なんなの!?酒呑童子も羅生門も全然カンケーねぇ!!てか、綱様との因縁は!?それじゃただのメンヘラだよ!?
ってな具合にどうにもわたしの萌え探求心が満たされないので、今まで見てきた『戻り橋』・『羅生門』・『大江山』をまとめると、
「京の北にある戻り橋に夜な夜な鬼が出ると噂を聞いた渡辺綱が夜中に橋のたもとへ通りかかると、一人の美しい女がいた。どれ私の馬で家まで送ってやろうとその女の手を取ると、女はみるみるうちに鬼となり襲いかかってきた。しかし、綱は慌てることなく太刀を閃かせ、鬼の左腕を両断した。
痛みに耐えかねた鬼女は姿をくらまし、無事、都の平穏を取り戻したと思ったのも束の間、今度は仲間の鬼が綱の義母に化けて腕を取り返しにやってきた。
2匹の鬼の正体が酒呑童子とその配下、茨木童子だと知った頼光一行は、鬼たちの逃げ去った方角・大江山へと急ぎ向かうのであった――。」
こんな感じですかね。大体こんな感じ。
酒呑童子が腕を取り返しに来るシーンが羅生門だったりするので、今までの流れを総括すると、『戻り橋』→ (『羅生門』) →『大江山』になるでしょうか。もちろん「戻り橋」のお話そのまま「羅生門」とする場合もあるので、『戻り橋』≒『羅生門』→『大江山』の方が良いかもしれません*1。
でもね、これだけは一つ言いたい。
これでは萌えスペクタクル・ファンタジィが足りない。
いやいやいやいや(←うわずった感じで)、いきなりすぎだから!物語が突然始まりすぎだから!初めての邂逅みたいなのないの!?てか、パート1も2も主人公綱様じゃね!?まぁ、それはいいよ。でもさー、部下の腕を取り返しに来るってなんか…ねぇ…。茨木童子は女の鬼だったっていう説もあるけどね…うん。ハッキリ言って、そういうのは求めてないんだよね。ということで!!私が推すスト―リー展開はこちら!!
「大和の国・葛城山に巣食う土蜘蛛征伐にやってきた頼光一行。土蜘蛛の左腕を切り落とすが、手負いの土蜘蛛は残党を引き連れ京の方角へと姿を消してしまう。
その正体が酒呑童子が一味だと知った一行は急ぎ京に戻るが、土蜘蛛の邪気にやられた頼光は熱病にうなされ動くことができない。切り落とした左腕は綱が保管するが、戻り橋で美女に化けた茨木童子に襲われる。
これを退け、敵の襲来を悟った綱が自宅に戻れば、そこには義母に化けた茨木童子がいた。綱から左腕の在り処を聞き出した茨木童子は、酒呑童子の左腕奪還を果たす。
八幡大菩薩の力により何とかこの場に駆け付けた頼光は一行を率いて、茨木童子が逃げ去っていった方角・大江山へと向かうのであった―――。」
ってゆうのが、いつかわたしが「大江山3部作」を連続で見た時のストーリーだったんだけどなーーー。妄想だったのかなーー。
全然違うお話『土蜘蛛』という演目がムリヤリ登場してますね。これは能でも歌舞伎でも伝承でも「大江山の酒呑童子伝説」と「葛城山の土蜘蛛伝説」は完全に別個です。
だから、上のお話は完全なるフィクションなんですが、前後の話と整合性が取れてるし、本来なら後のお話である『戻り橋』が上手に組み込まれてるし、非常に完成度高ぇなオイ、って感動したのを覚えてるんですが…、どこさがしてもこの話の流れはなかった…なんで…だ…。
この3つのお話が気に入ったのをきっかけに、こうやって色々調べまくってるのに…な…ぜ…。10年以上前のことだからかな…。(´・ω・`)
ただし!史実に基づけば完全なるフィクションなんですが、そうそう一概に否定も出来ないんですよねー、これが。
酒呑童子は酒「天」童子とも書かれていたことから、その土地の有力な豪族であったとされ、また大江山は鉱山として古くから栄えていたと言われますし、酒を飲んだ時のような赤ら顔は鉱山病、つまりは鉱夫であることを表し、金属の精錬に必要な燃料=木は茨木童子の名前から読み取ることができるようです。
(※ちなみにこういう理由で鉱山はハゲ山になること必須なのですが、緑化にきちんと取り組み、持続可能な鉱山開発を進めていたのが、世界遺産に登録された石見銀山です。)
無類の酒好きという共通点から八岐大蛇の子孫なんて説もありますが、「八雲=やくも」や「土蜘蛛=つちぐも」というのは朝廷(日)に敵対する土着の民(雲)のことを指す場合もありますので、土蜘蛛=酒呑童子一派だというのは、あながち間違ってないんじゃないかな?
どっちも製鉄・精錬技術を持った土地の有力者=富裕層であることは間違いなく、朝廷の意向に従わない、いつ反乱を起こすか分からない危険分子だと見なされていたため、この物語は朝廷による地方豪族の反乱鎮圧を描いたものだとする見方が多いです。
こうなってくると、どこまでがフィクションなのか分からなくなってきちゃいますね。最初から史実が捻じ曲げられてたんじゃあね。
まぁ、結局何が言いたいのかと申しますと、こっちの方が綱様v.s.茨木やべーーー!!うひょーー!!美女に化けたり、お義母さん殺されたり、相棒の腕取り返しに来たり、なんだこれ綱茨?これに酒呑様が加われば無限大に。よしきた!!!これだよこれ!!もうトキメキが止まらないよ、wktk☆宇宙だ、これは。ヒャッハァーーーッ!!
…ってこういうことを日がな一日一生懸命考えて、この記事書くためにDVDとかパンフとか見直したりしてるところ、わたしはただのアホなのかなと思う今日この頃です。
ちゃんとしよう。
【大江山解説①】週刊少年オオエヤマ
前回の大蛇が思った以上に長文だったので、この秋の間にメジャー演目を解説しようという当初の目標は砕け散りました…。ゆるゆるっていうところだけ反映させていこうと思います…。む、無念なり…。
それでは、ヤケクソ元気よく第2弾スタートです。記事がマニアックなので演目はメジャーなのからやっていきましょう、別にいまの時期にガシガシ書かないと誰にも見てもらえないんじゃないかと思ってるからではありません。
今回は『大江山』について解説します。
ビギナー・玄人問わず超・超・超人気のこの演目、夜神楽ではこれを見るためだけに出向く人もいるくらいです。(←わたしのこと。) 始まるちょっと前にわらわら人が集まってきて、深夜1時すぎには本殿の外まで立ち見でいっぱいになるというお客ホイホイ。(そして終わった瞬間にほぼ半分帰る。)
『大蛇』を最後の締め・大トリとするならば、中盤の山場として会場のボルテージを最高潮にするのが『大江山』。わたし調べによると、神楽ファンは大蛇派より大江山派が多い気がするなー。
ふつう神楽はタイマンかダブルスなんですが、なんかもうすんごい登場人物が多いため、狭い舞台ならごった煮の闇鍋状態!!(注:島根で一番人口密度が高いのは大江山です。)
こんな大人数で大立ち回りするもんだからその迫力たるや、ハンパないッ!!豪華絢爛な衣装・勧善懲悪の王道ストーリー・激アツの死闘、派手派手派手派手ェ!!派手派手ラッシュ!!!(※イメージです)
一旦、落ち着こうね。
まぁ、なんでこんなに派手かというと、『大蛇』が神話を元にした神様物語なのに対して、『大江山』は能や謡曲を元にしたヒーロー譚だからです。舞台装置が派手で人数も多い、お話もバトル中心なのはたぶんそういう理由じゃないかな。
この演目はさっきお話しした通り、3人組のヒーローと大人数のヴィランズとの戦いを描きます。少数精鋭派遣社員vs大手凶悪犯罪組織の異能バトルもの。
この凶悪犯罪組織の中心は、首魁・酒呑童子(しゅてんどうじ)とその右腕・茨木童子(いばらきどうじ)といいまして、他人に化けたり、切られた腕をくっつけたり、蜘蛛の糸を使ったりします。アレ、どっかで聞いたことある…♦♠
対するは、平安中期に実在した武将・源頼光(みなもとのらいこう)とその部下・頼光四天王。リーダー・源頼光は歴戦の猛者の中の猛者で、清和源氏台頭の礎を作ったすごい人(※キレても目は赤くならない。)。本演目では、武芸の達人・渡辺綱(※マフィアのボスではない。) とまさかりかついだ金太郎・坂田金時(※攘夷志士ではない。) の2人が悪鬼征伐のお伴として登場します。
『大江山』というのは実は一連の物語の完結編にあたり、酒呑童子と頼光の因縁は『戻り橋』『羅生門』あたりで語られています。(←ここらへんお話の流れは本当に色々あるので【解説②】で真面目?にまとめます。)
さて、前情報はこのくらいにして、物語を追っていきましょう。
舞台は京の西・丹波の国にある大江山の麓から始まります。先のお話で茨木童子が逃げた方角にダッシュで行ってみると、この付近の大江山という岩山が酒呑童子の棲み処であると判明します。一行は正体を隠すために山伏に身をやつし、一路大江山へと向かいます。
山伏というのは、日本古来のUMA・天狗のモデルになったとも言われていて、山に籠って修行に励む修験者のことを指します。山の中で筋トレしまくったおかげでムキムキだったらしいので、このコスプレ変装、ナイスチョイスだな…。3人が地味な格好をしているのはわざとであって、金欠だからとかそういう理由ではありません。
大江山へと向かう道の途中、突然出てくる簡素なお召し物のおじさんは八幡大明神の権化です。(遣いというところもある。) 源氏と言えば八幡宮、八幡と言えば武芸の神、戦いの神様です。(このおじさんの若い時の話が『弓八幡』という演目です。) 衣装が地味なのはわざとであって、金欠だからとかそういう理由ではありません。この八幡大明神から、善い人が飲めばファイト一発、悪い人が飲めばヤバみな毒になるお酒をゲットします。(もー、すぐ酒の力かりて騙し討ちしようとするなぁ!!)
真面目なところは瓢箪とか風呂敷に包んだお酒をくれますが、わたしのところでは一升瓶をドーンとくれます。土方の親分みたいです。(※イメージです。)
また、きれいな格好をしたお姫様が出てくる場合もありますが、このお姫様は紅葉姫といって、鬼の棲み処への道案内として一行を助けてくれます。(実は鬼だったとか、いきなり背後から刺してくるとかそういう展開は残念ながらありませんので、安心して下さい。)
この2人の助けを借り、一行はついに酒呑童子の棲み処へと辿り着きます。イェーイ!!待ちに待った全鬼大集合だ!!全役者、揃踏み。本当に壮観です。
ちなみに、このイッキシーン、神楽では毒味を兼ねていますが本当は酒のつまみに出てきた人肉を食べるというクレイジーなものだそうです。3人はウッ、ウッと言いながら「お、美味しいです…」って食べたらしいですね…。なんというか、イッキにゲテモノ食いに、こう、日本の飲み二ケーションには歴史がありますね(震え)。
神楽のイッキシーンは大体飲んでるフリなんですけど(当たり前)、ガチで飲んでるとこもあって本当に恐れ入ります。しかも、そのあと普通にガンガン舞ってますからね、神秘です。あ、あと、お客にお酒をお裾分けして下さるところもありまして、それがな~、今日イチで盛り上がるんだな~、大人が。もうね、一升瓶出てきた時から瓶しか見えてないからね、大人は。回ってくるときに歓声があがるからね、大人は。(子供たちはファンタとか飲んでてね!!)御神酒は縁起物ですので、ぜひ一口頂いてみては。
宴もたけなわになるころ、鬼たちが泥酔していることを確認した3人がベタな変身で正体を現します。
「綱と金時vsゆかいな子分たち」、「綱と金時vs茨木童子と第三の鬼」、「頼光vs酒呑童子」という対戦カードは神楽の戦闘シーンの基本形「2対多」、「2対2」、「1対1」の全てを揃えているため、これでもかってほど鬼舞(バトルものの演目)を楽しめるのが大江山の素晴らしいところ。
第1カードはサクッと子分が負けちゃうんですが、これはこれでほんと面白すぎる!!特に夜神楽ではほぼコント状態になるので(当社比)、ザオリクしまくる鬼がいて神すぎるし、鬼のなかにちっちゃい子が入ってる(すごいかわいい!!) のになかなか死なせてもらえなくて勝手にハケちゃったのは私の心に刻まれたし、いきなり舞台に乱入したあの人は結局一体だれだったの……?フリーダムなの?石見人。(子分の中の人に勇気ある一般の志願者を入れてくれるところもある。すごい。)
おっと、脱線した。
第2カード、綱と金時vs茨木童子と第三の鬼は、なんかもう、わたしは涙なしでは見れなくて、とくに綱さんvs茨木童子さんの因縁がやばくて、腕切ったり、腕取り返したり、戦ったり、お義母さん殺されたり、戦ったり、騙し討ちしたり、逃げられたりとほんともうページ数が足りない。この推しカプ因縁の対決については【解説②】で詳しく語る。
綱様と頼光はだいたい双子コーデなので全然見分けつきませんが、ここのシーンでようやく違いがわかっていただけるかな??得物(持ってる武器)は刀だったり弓矢だったりまちまちですが、そう、この中で一番輝いてるのが綱様ですよ。金太郎氏は面を外してビフォーアフターするのが見どころかな。(温度差)
最終カード、頼光vs酒呑童子の鍔迫り合いから始まるこの演出、ほんといいですねぇ。蜘蛛がバーッて出てくるのもいいし、変化系なのか操作系なのか酒呑童子が蜘蛛の糸を降らせるのもすごくいいし、特質系なのか知らんけど取られた刀をお祈りで奪い返す頼光もいい。照明を暗くしたり点滅させたり、それに合わせて囃子が音色を小さめにしたり、一転、爆音になったり。最高にロックかよ。
わたしからすると酒呑童子の面はバカデカ(西浜田や益田は巨大)なので、これをあの速さで舞うのは本当に尊敬します。衣装の早替えもあって目が離せませんなぁ!!トイレに行けませんなぁ!!
そして見事、酒呑童子を討ち果たすのですが、ぜひ!!首を獲ったシーンでも拍手を!!最後のハケまで惜しみない拍手をお願い致します!!
この神楽はお察しのとおり、ダラっとするところがないんですよ。すぐ鬼が出てくるし、宴会のシーンや素人さんに対してはアドリブが求められるし、緊迫した戦闘シーンが最後の最後まで続くから。そして、そのすべてを囃子が支えています。
ときに怪しく、ときに激しく。「大江山」が会場全体になって楽しめるのは、神楽囃子とわたしたちの鼓動とが、ぴったり重なっているからではないでしょうか。
死闘を演じ切った舞い手さんはもちろんのこと、役者と観客を繋げ続けた囃子方さんにも、大きな大きな拍手を!!
それじゃあ、トイレ行こうかな!!!!!
【大蛇雑学】長いものに巻かれるのも意外としんどい
なんか糖尿侍的なタイトルになった…アレ…?
ということで(?)、ストーリー以外の解説もちゃんとしていきたいと思います。神楽(チャイナ娘じゃないアルよ!) をより楽しむにはストーリーを理解するだけで十分だと思いますが、せっかくなので色々書いちゃいましょう。
まずは大蛇の衣装はどうなってんのか?ってことについて。
これって、別に企業秘密でも何でもないのに探してもあんま出てこない気がするんですよねー。んー、少年少女たちはみんな大蛇の中身、気になるはずなんだけどなー。アレはヘビ型ロボットじゃないからね、精巧な着ぐるみだからね、ゆるキャラだからね、と小さな声で教えてあげたい。
それでは疑問に自問自答。
大蛇の衣装は蛇(じゃ)の頭部=「蛇頭」と蛇の胴部=「蛇腹」に分かれています。
蛇頭(じゃがしら)は着ぐるみなんかと同じでスポッと頭にかぶるタイプのもの。
口の中から外が見えるようになっていて(夜神楽で最前列で見たりなんかするとたまに中の人と目が合う。) 、舌の部分には火薬が設置できるようになっています。蛇が火を噴くのは実はこういう仕掛け。
最近では目がLED的に光る面もあって広い会場なんかだと赤い目がよく映えてステキってなるんですが、髪(?)も茶髪とか色々あってオサレです。ちょいチャラそう。
大蛇は8体もいるうえに、全部色チにしているところがほとんどで、どの色が最後に死ぬ~とか大技を決めるときの色の配置が~とか、何気にセンス問われるなって思いながら見てます。
夜神楽の時は大体4匹で(8匹も出たら狭くて踊れないっていわれた)、緑・白・赤・黒の蛇が出てくる場合が多いですかね。ちなみに、この4色は神楽の基本色で東西南北のテーマカラーとなっています。
これに加えて、黄・オレンジ・青・紫があって、水色とか焦茶色なんてのも見たことがありますが、焦茶色!!カッコいいんだよなー!!ただしレアなんだよなー!あと、どう考えても同じ色なんだけど年季入ってるやつは薄くて、入ってないやつは濃い色だからこいつらは同じじゃないから、別モノだから、って主張してくるタイプを昔はよく見かけたもので、あれはあれで良かったなってなる。
それから、大蛇の面はヘビというより龍をイメージして作られているそうなので、あっさり塩顔でなく濃厚ソース顔なのはそのせいです。
次に、蛇腹は蛇胴(じゃどう)とも呼ばれ、ちょうちんと同じ作りになっています。
じゃばらって聞いてことないですか?一般に使われる言葉としては、「まがるストローの折り曲げる部分」みたいなものを指すらしく、「山折りと谷折りが連続した輪」のことだそうです。大蛇の蛇腹も同じ構造になっています。
一説によると、明治時代以前は獅子舞みたいに布を体に巻いて舞っていたんだとか*1。現在でも、古式の神楽である出雲神楽にその名残を見ることができます。ちょうちんをヒントにして蛇腹を作り上げたのはせっかちスピーディーでダイナミックさがウリの石見神楽ならではの特色といえるでしょう!!
折りたたむと小学校低学年くらいのサイズ感ですが、伸ばすとスーパーロング(約18m)になるので、小さく格納して出演先に持っていくことができる優れもの。先っぽについてるエビフライみたいなのは尻尾ですね、カワイイ。
蛇腹は触ると怒られちゃうんだけど、その理由は和紙で出来ているから。蛇腹に限らず石見神楽の面は全て石州和紙で作られています、すごいよねー。前の方で見てるとたまに尻尾の方が直撃してきて割と痛いんですが、和紙で作られてるから軽めなのかな?と思いきや、普通に重いそうです。蛇の道はHEAVY(←Vは下唇を噛みながら)、、、言いたかっただけ。
んで、またすごいのはこの蛇胴の入り口にはリュックみたいに紐がついていて、それを背負って踊ります。背中から蛇胴が生えてる感じ。
この蛇胴をぜーんぶぐるぐる体に巻き付けると、とぐろを巻いた大蛇になります。イメージとしてはバネの中に人が入ってる感じ。私はチョココロネと命名してる。これで、中の人は完全に見えなくなります。
蛇を舞う基本は自分が外から見えないように舞うことだそうです*2。さっきも言った通り、紙でできているからといって別に涼しくなんかなくて、普通に暑いらしい。インナー+衣装って、夏に野外で神楽舞う人、ホント死なないでって思う。
あと、変幻自在に蛇の高さが変わったり、4~8体で組む大技を披露できるのは、体に巻き付ける蛇胴の長さと姿勢の高低を上手に調整しているからで、よーく見ると前の方にいる蛇の首周りに必ず1.5周から2周くらいとぐろが巻かれているのがわかると思いますが、この1.5~2周の中に姿勢を低くした中の人が入ってたりするので、本当に蛇はすげぇなー無限大だなー神秘だなーって感心しきりです。
と、このように私は蛇の中に入るなんてすごいね!!って思うのに、実際は割と経験が浅い人でもすぐ中に入れるそうです。あれ~!?頭数がいることや、最後の演目でみんなお疲れなので若者が入って欲しい、なんてのも聞いたことがありますね。蛇なんか誰でもできるって言われたこともありました、ホントかよ。
ただ、通な方とお話していてほんとだなぁ、って目からウロコだったのは、
「蛇は一番上手い下手が出る」
ということでした。4~8匹、同じ形の役がいるため比較するのが容易というのもありますが、なんというか、人の形でない役=四肢のない役は石見神楽では大蛇以外ありません。だからこそ、大蛇特有の所作は大蛇という演目をこなしていくことでしか身に付けられないからかな、と思ったりしました。
派手な演出が見どころの華やかな演目ですが、本当に上手い蛇は、一体で魅せます。ちょっとだけ細部に目を凝らして見るのもいかがでしょう。
【大蛇超訳】やまたのおろち
注:妄想と主観をフル装備して書いていきます。イメージ崩壊したくない人、真面目なあらすじを求めている人はお読みになりませんよう強くお願い申し上げます。
しとしとと生ぬるい雨の降る中、一人の青年が旅をしていました。
ぼろぼろの蓑笠をまとい、供一人つけず歩くこの青年は、名をスサノオと言います。
この青年は、天上の神々が住まう高天原を統べる太陽の神・アマテラスを姉に、夜を照らす月の神・ツクヨミを兄にもった位の高い神様でした。しかしながら、姉の家の玄関先でう〇こしたり、馬の皮を引っぺがして女官にトラウマを植え付けたりと、やりたい放題やらかす伝説のDQNとして高天原では悪いうわさが絶えません。
そしてついに、数々の悪行に耐えかねたアマテラスは「もう、ムリ!!」とブチ切れ、引きこもりになってしまいます。太陽が隠れてしまったら、世は乱れ、草木は育ちません。神々が「ねぇ、ドアを開けて~」と心配しても完全にシカト状態。結局、これをみかねたアマノウズメの捨て身の作戦で事なきを得ましたが(←ここらへんのお話は「天岩戸」という演目で描かれています。)、スサノオにはアマテラスをヒステリーかつ引きこもりにさせた罪により高天原からの追放という重い処罰が下されました。
行く当てのないスサノオはかねてより思いを馳せていた黄泉の国(現在の島根県奥出雲町)にいる母・イザナミに会いに行こうと、たったひとりきり、一路西へ向かいます。
そうして長い旅の果て、ようやく出雲の地へとたどり着いた、ある日のことです。
川の上流からどんぶらこ~、どんぶらこ~、と箸が一本流れてきました。
残りの弁当はどうやって食べるつもりなのか気になったスサノオは、その片方だけの箸を拾ってみると、思いのほかセレブレティなお箸です。
「ハッ…!もしやこれは、この上流の住民からのSOSなのでは……?」
名探偵スサノオはじっちゃんの名にかけて川の上流へ行ってみることにしました。
やっとのことで川上に着くと、そこには年老いた夫婦と一人の美しい娘が泣いているではありませんか。しかしどうにも、この場の空気は重たすぎて「ちわーす」みたいな軽いノリでは話しかけられません。意を決して挙動不審に近づくと、持っていた箸に気づいたおじいさんはこう言いました。
「そ、それは!!わたくしどもが流したメーデーです!!」
ベタベタな展開にスサノオが戸惑っていると、おじいさんは聞いてもないのに勝手に一人で語りはじめました。その話によると、
「この辺りには頭が8つ、胴が1つ、尾が8つの巨大な蛇のUMA・ヤマタノオロチが住んでおり、毎年この時期に散々暴れまくったあげく、姫を一人食べていく。最初は8人いた姫たちも、今年で最後の一人になってしまい悲しくて悲しくて震えている。」
とまさかの怪奇現象を語るではありませんか。
うわーやべーことに巻き込まれちまったなーと思いつつ、しかしながら、さっき見た姫の泣き顔がふと浮かんできます。…いや、待てよ。よくよく思い出すと泣き顔もすげーかわいかったし、…オレしか頼る人もいないっていうし……。ん、これは!?ちょ、フラグ立ったよね!!?とテンションが上がったスサノオは
「じゃ、じゃぁ~?もしそのオロチ?に勝ったら~、そいつと結婚するから~、、、、って、バ、バーロー!!じょ、じょうだんだし!言ってみただけだし!!」
と自分の痛い発言に悶えていると、「いいよ。」となんともあっさりとじいさんから公認されたので、半信半疑ながらも大蛇を退治したら姫と結婚するという条件でこの難題を引き受けることにしました。
しかし、頼まれたはいいもののバカでっかいUMAをたった一人で倒すのはムリです。そこで、高天原で培った悪知恵を使って策を練ることにしたスサノオは熟考の末、あるひとつの名案をひらめきます。その名案とは、
「アル中なオロチの特性を利用して、じいさんとばあさんの老体にむち打って作らせた大量の毒酒を飲ませ、急性アルコール中毒で動けなくなったところを一気に殺る」
というなりふりかまわない計画でした。
そして、ついにその日がやってきました。
ヘルニアに悩まされながら作った酒の匂いにつられて、深い山の奥から続々と大蛇が這い出てきます。大蛇たちは毒入りとはつゆ知らず、ヒザの痛みに悩まされながら作った酒を上機嫌にあおってゆきます。そしてとうとう最後の一匹が瞼を閉じると、舞台袖でドキドキしながら待っていたスサノオが姿を現しました。
用心深く大蛇たちを小突き回して眠りについているか確認すると、一匹の大蛇の頭を掴み、一気に首を刎ねようと刀を振り上げます!
その瞬間!!血のように赤い写輪…瞳がカッと見開かれたではありませんか!
笑えない寝起きドッキリを仕掛けられた大蛇たちは阿鼻叫喚。あんのジジイとババア、水で嵩増ししやがった!!とスサノオもおじいさんとおばあさんに仕掛けられた逆ドッキリという婿入りの試練で心臓が猛ダッシュしています。
しかし、ここまで来て後には引けません。
うねる大蛇の巨体を躱しながら一匹、また一匹と大蛇の首を獲っていきます。
そしてついに、満身創痍の体に力を込め、「ラスいち!!」とばかりに最後の大蛇の首を鮮やかに刎ねました。血の滴り落ちるその頭を天高く掲げると、じわり、じわり、これまで感じたことのない喜びと安堵が広がってゆきます。
これで、やっと、姫と結婚できる、姫が、「おつかれさまでした」ってタオルを渡してくれる、そう冷たくて生臭いタオルを渡して・・・
(・・・・・・・・・・なまがわきかな???)
嫌な予感がしたスサノオはかなりうっすら目を開けてみると、なんと、胴体だけになった大蛇がビチビチ暴れまくる衝撃的な光景が広がっているではありませんか。
ギャーーー!!G並み!!とブンブン振り回した剣がちょうど大蛇の尻尾あたりを切り落とすと、大蛇の胴体は血を撒き散らしながら、しばらくのた打ち回ったあと、次第に動かなくなってゆきました。
ほ、ほんとうに死んだのか…?とジェット後のGを見るような目つきで大蛇を検分していると、尻尾の先に何かキラリと光るものがあります。
Gをポイする時と同じ感覚でうわぁきもぉ…と気持ち悪がりながらも、その光る何かを一息に引き抜くと、それは大蛇の血に濡れながらも輝く一振りの剣でした。
薄曇りの空を反射する美しい刃を右手に、死闘の果てに獲った大蛇の首を左手に、スサノオはあの家族の喜ぶ顔を胸に浮かべながら、やっと大きく息を吐きました。
こののち、スサノオはこの剣を「天叢雲刀」と名付け、櫛稲田姫とともにこの地に新しい居を構えることを、厚く重なる雲の下、高らかに誓ったのでした。
めでたし。