【大蛇解説】ロマンチック・ヤマタノオロチ
さて、記念すべき第一弾としまして一体何の演目にしようかな~迷うな~ワクワク!!と思ったわけですが、備忘録も兼ねる本ブログは実際のとこ一定数の読者も欲しいので、石見神楽のなかでも一番有名な『大蛇』について解説していこうかなと思います。長いものに巻かれて元気よくスタートです。
この『大蛇』という演目はさっきも言った通り、石見神楽の超花形なので夜神楽や競演大会では最後に舞われることが多いです。(神楽カレンダーも絶対12月は大蛇をチョイス。)
そんな不動の人気演目であるため、
・どこかしらで神楽をやっていたら大抵見ることができる
・海外でもスタンディングオベーションをもらったという話を聞く
という点は神楽を楽しむ入門編として本当におススメです!!
分かりやすいストーリー展開と派手な演武は大人から子供までみんな大好き!!(ただし、競演大会では地元民は帰りのラッシュに巻き込まれないように大蛇を見ながらそそくさと帰る。)
それでは、詳しく解説していきましょう。
『大蛇』は「オロチ」と読み、8匹の大蛇と1人の神との戦いを描きます。
大蛇の正式名称は「八岐大蛇(ヤマタノオロチ)」といい、出雲国風土記の記述と出雲地方に古くから伝わる「八岐大蛇伝説」をモチーフに作られました。島根県民からするとかなりメジャーなお話なのですが、他の地域の方は全く知らないてか島根どこ?って聞かれるんだよ…クッ…。島根は…鳥取の…ひだりだよ……。
気を取り直して、みなさんはどうでしょうか?割と有名なお話(島根比)なので本や漫画の題材にもなってますし、神話や古典が好きな方だったら一度は読んだことあると思います。たぶん、
V.S.
って覚えてらっしゃる方が多いかな?それで合ってます。
私ランキングによれば、ストーリー性だけだともうぶっちぎりで一番好き(ちなみに総合だと「天神」)で、 なんでかというと、他の鬼舞(悪役の出てくる話)のストーリーは大体、
偉い人から鬼退治という辞令が出る
↓
僻地に送られる(徒歩)
↓
命を賭して任務遂行
↓
今から本社に帰ります(徒歩)
ってオイオイオイオイ、そこはブラック企業かよ!!??君は公務員じゃねーのかよ!??日本人っていったい…??ってなるところ、こと「大蛇」に関しては、
『国を追われた王子様がお姫様に一目ぼれして、窮地から救い出す。』
…な、なんだこれ…。なにこの王道展開…。なんなんだ…少女漫画か…!?ラブ・ストーリーは突然に始まってしまうよ!?だって、他は仕事で嫌々(たぶん)鬼退治するとこを、ひ、一目ぼれって…!!なにそれ……ピュ、ピュアピュア(きゅん)…、とこの胸の高鳴りを友人に力説したところ、
「や、初対面で結婚しろってなに?全然こっちのこと考えてない。ありえん、引くわ」
とひどく全うなご意見を頂戴したことがあります。あれ…ロマンチックとは…??*1
そんなこんなで、いきなり脱線しましたが、こんな感じでやっていきたいと思います。
一応あらすじをまとめました。知ってる人も知らない人も読まなくて大丈夫です。→【大蛇超訳】やまたのおろち
さて物語は高天原を追放されたスサノオが孤独な旅をしているシーンから始まります。(本格的に大蛇を舞う場合は櫛稲田姫の姉・七の姫が大蛇に喰われるところからスタートします。とても劇的なので個人的にはこっちの方が好き。)
この前日譚にあたる神楽が『天岩戸』。超訳の方では面白おかしく書いちゃいましたが、実は高天原追放の原因になった悪行にはスサノオなりにちゃんとした理由があって、「遠い昔に亡くなったお母さん・イザナミに会いたいという一心(マザコン)から、それを禁止する父と姉に反抗してDQNの道を爆走してしまった」という尖ったナイフような背景を抱えています。
そして舞台は神話の国・出雲へと到着。
ここで、後にスサノオの妻となる櫛稲田姫(くしいなだひめ)と姫の両親(※じじばばでない)が登場し、八岐大蛇についての全容が語られます。てゆうか、この話は島根のことを本当に巧く表現してるわ…。人間:高齢者:動物=1:1:4…。
この日本最古のUMAは島根県出雲市にある斐伊川がモデルとなっており、今でこそ水量は少ないものの、昔は荒れ狂ったように氾濫を繰り返し、その砂鉄の含有量の多さによって流れる水が血のように真っ赤な暴れ川だったといいます。(このお話は元ヤン対決なの?)
八岐大蛇については「目は鬼灯のように赤く、胴は裂け血が滴り落ち、その背には木々が生い茂っていた」という記述もあって、出雲地方の豊かな自然をモチーフにしたというのがよく伝わってきますよね。石見神楽では八岐大蛇は8匹の大蛇で表現されますが、伝説と比べるとゆるキャラみたいなもんですね。
そんな伝説のUMA・八岐大蛇をスサノオは死闘の末、見事騙し打ち果たします。
これについては、八岐大蛇退治=斐伊川の治水とそれに伴う製鉄技術の獲得がこの神話のテーマではないかと言われており、治水工事による肥沃な土壌の確保はスサノオの妻となる櫛稲田姫から、製鉄技術は最後に大蛇の尻尾から出てきた天叢雲刀(あめのむらくものつるぎ)から読み取ることができるようです。天叢雲刀は日本三大神器・草薙剣なんですよ。スゴイ!(→「日本武尊」という演目でなぜ天叢雲刀を草薙剣と呼ぶようになったかが描かれています。)
一方で、この物語は中世以降に脚色されて現在の形になったため、史実に基づいていない全くのフィクションだとも言われています。う、うーん…(゜-゜)
だけれども!!八岐大蛇が飲んだほろよいは島根県の佐香地方で作られたという話もあるし!*2、雲南市の斐伊神社には大蛇の首塚「八本杉」が、須佐町の須佐神社には大蛇の首の骨として伝わるでかい骨があるって聞くし!これこそロマンだよ!イイ!!
そして、無事に大蛇を退治したスサノオはかの有名な日本初の和歌を詠みます。
「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣つくる その八重垣を」
この八重垣とは松江市にある八重垣神社のことで、縁結びのパワースポットとして超有名なところです。
出雲地方の須佐之男命ゆかりの神社って、櫛稲田姫はもちろんのこと、義理の父母・足名槌命(アシナヅチノミコト)と手名槌命(テナヅチノミコト)も一緒に祀られているところが本当に多くて、なんかほっこりですなー。家内安全に本当にご利益がありそう。
神楽では舞台の隅で怯える姫ですが(※囮になっているのではない)、伝承ではその身を櫛に変えてスサノオとともに戦場を駆け抜けたそうです。(この櫛をモチーフにしたお守りが八雲町の熊野大社にあって、とっても可愛くて上品なんですよ~!)
ちなみに、櫛稲田姫・足名槌・手名槌の中の人が若者の場合が多い理由は、「姫はずっと立って震えていないといけないからしんどい」、「爺婆はずっと中腰でしんどい」からだそうです!がんばれわこうど!
さて最後(やっと!!)になりましたが、神楽の基本様式としましては演目の初めには必ず「神楽歌」なる和歌が詠まれます。その演目のイメージを形作るためのイントロやプロローグみたいなものですね。
『大蛇』では、先ほどの「八雲立つ~」も使われていますが、私のお気に入りは、
「青草を 結ひ束ねてぞ 蓑笠の 作り初めます 須佐之男神」
何もかも無くして黄泉の国=死出の旅路にでる青年が長梅雨をしのぐため、作ったことなどない蓑笠をたった一人で作っている…、これほどに物語の始まりとしてピッタリな歌はないな、と感動したのをよく覚えています。
死を選んだ青年と死から逃れられない少女との出会いを「死と生」が鮮やかかつ苛烈に映し出し、また、罪人から英雄へ、死から生への「変容」を敵役の大蛇でさえも厳かに、かつドラマチックに描いているのが、『大蛇』という演目の醍醐味と言えるのではないでしょうか。
ね!!ロマンチックだなって思ってきたでしょ??(ドヤァ!!)