秋の夜長に勝手に石見神楽を解説しようじゃないか。

島根西部の伝統芸能・石見神楽を妄想と主観で解説してます。ビギナー向け。

【大蛇雑学】長いものに巻かれるのも意外としんどい

 

なんか糖尿侍的なタイトルになった…アレ…?

 

ということで(?)、ストーリー以外の解説もちゃんとしていきたいと思います。神楽(チャイナ娘じゃないアルよ!) をより楽しむにはストーリーを理解するだけで十分だと思いますが、せっかくなので色々書いちゃいましょう。

 

まずは大蛇の衣装はどうなってんのか?ってことについて。

これって、別に企業秘密でも何でもないのに探してもあんま出てこない気がするんですよねー。んー、少年少女たちはみんな大蛇の中身、気になるはずなんだけどなー。アレはヘビ型ロボットじゃないからね、精巧な着ぐるみだからね、ゆるキャラだからね、と小さな声で教えてあげたい。

 

それでは疑問に自問自答。

 

大蛇の衣装は蛇(じゃ)の頭部=「蛇頭蛇の胴部=「蛇腹」に分かれています。

 

蛇頭(じゃがしら)は着ぐるみなんかと同じでスポッと頭にかぶるタイプのもの。

口の中から外が見えるようになっていて(夜神楽で最前列で見たりなんかするとたまに中の人と目が合う。) 、舌の部分には火薬が設置できるようになっています。蛇が火を噴くのは実はこういう仕掛け。

最近では目がLED的に光る面もあって広い会場なんかだと赤い目がよく映えてステキってなるんですが、髪(?)も茶髪とか色々あってオサレです。ちょいチャラそう。

大蛇は8体もいるうえに、全部色チにしているところがほとんどで、どの色が最後に死ぬ~とか大技を決めるときの色の配置が~とか、何気にセンス問われるなって思いながら見てます。

夜神楽の時は大体4匹で(8匹も出たら狭くて踊れないっていわれた)、緑・白・赤・黒の蛇が出てくる場合が多いですかね。ちなみに、この4色は神楽の基本色で東西南北のテーマカラーとなっています。

これに加えて、黄・オレンジ・青・紫があって、水色とか焦茶色なんてのも見たことがありますが、焦茶色!!カッコいいんだよなー!!ただしレアなんだよなー!あと、どう考えても同じ色なんだけど年季入ってるやつは薄くて、入ってないやつは濃い色だからこいつらは同じじゃないから、別モノだから、って主張してくるタイプを昔はよく見かけたもので、あれはあれで良かったなってなる。

それから、大蛇の面はヘビというより龍をイメージして作られているそうなので、あっさり塩顔でなく濃厚ソース顔なのはそのせいです。

 

 

次に、蛇腹蛇胴(じゃどう)とも呼ばれ、ちょうちんと同じ作りになっています。

 

じゃばらって聞いてことないですか?一般に使われる言葉としては、「まがるストローの折り曲げる部分」みたいなものを指すらしく、「山折りと谷折りが連続した輪」のことだそうです。大蛇の蛇腹も同じ構造になっています。

一説によると、明治時代以前は獅子舞みたいに布を体に巻いて舞っていたんだとか*1。現在でも、古式の神楽である出雲神楽にその名残を見ることができます。ちょうちんをヒントにして蛇腹を作り上げたのはせっかちスピーディーでダイナミックさがウリの石見神楽ならではの特色といえるでしょう!!

折りたたむと小学校低学年くらいのサイズ感ですが、伸ばすとスーパーロング(約18m)になるので、小さく格納して出演先に持っていくことができる優れもの。先っぽについてるエビフライみたいなのは尻尾ですね、カワイイ。

蛇腹は触ると怒られちゃうんだけど、その理由は和紙で出来ているから。蛇腹に限らず石見神楽の面は全て石州和紙で作られています、すごいよねー。前の方で見てるとたまに尻尾の方が直撃してきて割と痛いんですが、和紙で作られてるから軽めなのかな?と思いきや、普通に重いそうです。蛇の道はHEAVY(←Vは下唇を噛みながら)、、、言いたかっただけ。

 

んで、またすごいのはこの蛇胴の入り口にはリュックみたいに紐がついていて、それを背負って踊ります。背中から蛇胴が生えてる感じ。

この蛇胴をぜーんぶぐるぐる体に巻き付けると、とぐろを巻いた大蛇になります。イメージとしてはバネの中に人が入ってる感じ。私はチョココロネと命名してる。これで、中の人は完全に見えなくなります。

蛇を舞う基本は自分が外から見えないように舞うことだそうです*2。さっきも言った通り、紙でできているからといって別に涼しくなんかなくて、普通に暑いらしいインナー+衣装って、夏に野外で神楽舞う人、ホント死なないでって思う。

あと、変幻自在に蛇の高さが変わったり、4~8体で組む大技を披露できるのは、体に巻き付ける蛇胴の長さと姿勢の高低を上手に調整しているからで、よーく見ると前の方にいる蛇の首周りに必ず1.5周から2周くらいとぐろが巻かれているのがわかると思いますが、この1.5~2周の中に姿勢を低くした中の人が入ってたりするので、本当に蛇はすげぇなー無限大だなー神秘だなーって感心しきりです。

 

と、このように私は蛇の中に入るなんてすごいね!!って思うのに、実際は割と経験が浅い人でもすぐ中に入れるそうです。あれ~!?頭数がいることや、最後の演目でみんなお疲れなので若者が入って欲しい、なんてのも聞いたことがありますね。蛇なんか誰でもできるって言われたこともありました、ホントかよ。

 

 

ただ、通な方とお話していてほんとだなぁ、って目からウロコだったのは、

「蛇は一番上手い下手が出る」

ということでした。4~8匹、同じ形の役がいるため比較するのが容易というのもありますが、なんというか、人の形でない役=四肢のない役は石見神楽では大蛇以外ありません。だからこそ、大蛇特有の所作は大蛇という演目をこなしていくことでしか身に付けられないからかな、と思ったりしました。

 

 

 

派手な演出が見どころの華やかな演目ですが、本当に上手い蛇は、一体で魅せます。ちょっとだけ細部に目を凝らして見るのもいかがでしょう。

 

*1:「以前は出雲神楽を模して鱗形を描いた襦袢(じゅばん)の股引(ももひき)を着て蛇頭をかむり、榊を手に横臥(おうが)の状態で舞ったもの」だったそう。また、蛇腹が考案されてからも大蛇は1匹しか登場せず、8匹で舞われるようになったのは大阪万博以降のことだそうです。(『石見神楽』矢高巌夫著(山陰中央新報)より。)

*2:そういや、中の人を見えにくくするため、オロチスーツなるものを着るらしいんだけど見たことないなー。基本黒の上下で最近迷彩のとこが増えてきたかな?って感じかな。オロチスーツ興味あるかって言われたら別にあんまないな。