【大江山解説①】週刊少年オオエヤマ
前回の大蛇が思った以上に長文だったので、この秋の間にメジャー演目を解説しようという当初の目標は砕け散りました…。ゆるゆるっていうところだけ反映させていこうと思います…。む、無念なり…。
それでは、ヤケクソ元気よく第2弾スタートです。記事がマニアックなので演目はメジャーなのからやっていきましょう、別にいまの時期にガシガシ書かないと誰にも見てもらえないんじゃないかと思ってるからではありません。
今回は『大江山』について解説します。
ビギナー・玄人問わず超・超・超人気のこの演目、夜神楽ではこれを見るためだけに出向く人もいるくらいです。(←わたしのこと。) 始まるちょっと前にわらわら人が集まってきて、深夜1時すぎには本殿の外まで立ち見でいっぱいになるというお客ホイホイ。(そして終わった瞬間にほぼ半分帰る。)
『大蛇』を最後の締め・大トリとするならば、中盤の山場として会場のボルテージを最高潮にするのが『大江山』。わたし調べによると、神楽ファンは大蛇派より大江山派が多い気がするなー。
ふつう神楽はタイマンかダブルスなんですが、なんかもうすんごい登場人物が多いため、狭い舞台ならごった煮の闇鍋状態!!(注:島根で一番人口密度が高いのは大江山です。)
こんな大人数で大立ち回りするもんだからその迫力たるや、ハンパないッ!!豪華絢爛な衣装・勧善懲悪の王道ストーリー・激アツの死闘、派手派手派手派手ェ!!派手派手ラッシュ!!!(※イメージです)
一旦、落ち着こうね。
まぁ、なんでこんなに派手かというと、『大蛇』が神話を元にした神様物語なのに対して、『大江山』は能や謡曲を元にしたヒーロー譚だからです。舞台装置が派手で人数も多い、お話もバトル中心なのはたぶんそういう理由じゃないかな。
この演目はさっきお話しした通り、3人組のヒーローと大人数のヴィランズとの戦いを描きます。少数精鋭派遣社員vs大手凶悪犯罪組織の異能バトルもの。
この凶悪犯罪組織の中心は、首魁・酒呑童子(しゅてんどうじ)とその右腕・茨木童子(いばらきどうじ)といいまして、他人に化けたり、切られた腕をくっつけたり、蜘蛛の糸を使ったりします。アレ、どっかで聞いたことある…♦♠
対するは、平安中期に実在した武将・源頼光(みなもとのらいこう)とその部下・頼光四天王。リーダー・源頼光は歴戦の猛者の中の猛者で、清和源氏台頭の礎を作ったすごい人(※キレても目は赤くならない。)。本演目では、武芸の達人・渡辺綱(※マフィアのボスではない。) とまさかりかついだ金太郎・坂田金時(※攘夷志士ではない。) の2人が悪鬼征伐のお伴として登場します。
『大江山』というのは実は一連の物語の完結編にあたり、酒呑童子と頼光の因縁は『戻り橋』『羅生門』あたりで語られています。(←ここらへんお話の流れは本当に色々あるので【解説②】で真面目?にまとめます。)
さて、前情報はこのくらいにして、物語を追っていきましょう。
舞台は京の西・丹波の国にある大江山の麓から始まります。先のお話で茨木童子が逃げた方角にダッシュで行ってみると、この付近の大江山という岩山が酒呑童子の棲み処であると判明します。一行は正体を隠すために山伏に身をやつし、一路大江山へと向かいます。
山伏というのは、日本古来のUMA・天狗のモデルになったとも言われていて、山に籠って修行に励む修験者のことを指します。山の中で筋トレしまくったおかげでムキムキだったらしいので、このコスプレ変装、ナイスチョイスだな…。3人が地味な格好をしているのはわざとであって、金欠だからとかそういう理由ではありません。
大江山へと向かう道の途中、突然出てくる簡素なお召し物のおじさんは八幡大明神の権化です。(遣いというところもある。) 源氏と言えば八幡宮、八幡と言えば武芸の神、戦いの神様です。(このおじさんの若い時の話が『弓八幡』という演目です。) 衣装が地味なのはわざとであって、金欠だからとかそういう理由ではありません。この八幡大明神から、善い人が飲めばファイト一発、悪い人が飲めばヤバみな毒になるお酒をゲットします。(もー、すぐ酒の力かりて騙し討ちしようとするなぁ!!)
真面目なところは瓢箪とか風呂敷に包んだお酒をくれますが、わたしのところでは一升瓶をドーンとくれます。土方の親分みたいです。(※イメージです。)
また、きれいな格好をしたお姫様が出てくる場合もありますが、このお姫様は紅葉姫といって、鬼の棲み処への道案内として一行を助けてくれます。(実は鬼だったとか、いきなり背後から刺してくるとかそういう展開は残念ながらありませんので、安心して下さい。)
この2人の助けを借り、一行はついに酒呑童子の棲み処へと辿り着きます。イェーイ!!待ちに待った全鬼大集合だ!!全役者、揃踏み。本当に壮観です。
ちなみに、このイッキシーン、神楽では毒味を兼ねていますが本当は酒のつまみに出てきた人肉を食べるというクレイジーなものだそうです。3人はウッ、ウッと言いながら「お、美味しいです…」って食べたらしいですね…。なんというか、イッキにゲテモノ食いに、こう、日本の飲み二ケーションには歴史がありますね(震え)。
神楽のイッキシーンは大体飲んでるフリなんですけど(当たり前)、ガチで飲んでるとこもあって本当に恐れ入ります。しかも、そのあと普通にガンガン舞ってますからね、神秘です。あ、あと、お客にお酒をお裾分けして下さるところもありまして、それがな~、今日イチで盛り上がるんだな~、大人が。もうね、一升瓶出てきた時から瓶しか見えてないからね、大人は。回ってくるときに歓声があがるからね、大人は。(子供たちはファンタとか飲んでてね!!)御神酒は縁起物ですので、ぜひ一口頂いてみては。
宴もたけなわになるころ、鬼たちが泥酔していることを確認した3人がベタな変身で正体を現します。
「綱と金時vsゆかいな子分たち」、「綱と金時vs茨木童子と第三の鬼」、「頼光vs酒呑童子」という対戦カードは神楽の戦闘シーンの基本形「2対多」、「2対2」、「1対1」の全てを揃えているため、これでもかってほど鬼舞(バトルものの演目)を楽しめるのが大江山の素晴らしいところ。
第1カードはサクッと子分が負けちゃうんですが、これはこれでほんと面白すぎる!!特に夜神楽ではほぼコント状態になるので(当社比)、ザオリクしまくる鬼がいて神すぎるし、鬼のなかにちっちゃい子が入ってる(すごいかわいい!!) のになかなか死なせてもらえなくて勝手にハケちゃったのは私の心に刻まれたし、いきなり舞台に乱入したあの人は結局一体だれだったの……?フリーダムなの?石見人。(子分の中の人に勇気ある一般の志願者を入れてくれるところもある。すごい。)
おっと、脱線した。
第2カード、綱と金時vs茨木童子と第三の鬼は、なんかもう、わたしは涙なしでは見れなくて、とくに綱さんvs茨木童子さんの因縁がやばくて、腕切ったり、腕取り返したり、戦ったり、お義母さん殺されたり、戦ったり、騙し討ちしたり、逃げられたりとほんともうページ数が足りない。この推しカプ因縁の対決については【解説②】で詳しく語る。
綱様と頼光はだいたい双子コーデなので全然見分けつきませんが、ここのシーンでようやく違いがわかっていただけるかな??得物(持ってる武器)は刀だったり弓矢だったりまちまちですが、そう、この中で一番輝いてるのが綱様ですよ。金太郎氏は面を外してビフォーアフターするのが見どころかな。(温度差)
最終カード、頼光vs酒呑童子の鍔迫り合いから始まるこの演出、ほんといいですねぇ。蜘蛛がバーッて出てくるのもいいし、変化系なのか操作系なのか酒呑童子が蜘蛛の糸を降らせるのもすごくいいし、特質系なのか知らんけど取られた刀をお祈りで奪い返す頼光もいい。照明を暗くしたり点滅させたり、それに合わせて囃子が音色を小さめにしたり、一転、爆音になったり。最高にロックかよ。
わたしからすると酒呑童子の面はバカデカ(西浜田や益田は巨大)なので、これをあの速さで舞うのは本当に尊敬します。衣装の早替えもあって目が離せませんなぁ!!トイレに行けませんなぁ!!
そして見事、酒呑童子を討ち果たすのですが、ぜひ!!首を獲ったシーンでも拍手を!!最後のハケまで惜しみない拍手をお願い致します!!
この神楽はお察しのとおり、ダラっとするところがないんですよ。すぐ鬼が出てくるし、宴会のシーンや素人さんに対してはアドリブが求められるし、緊迫した戦闘シーンが最後の最後まで続くから。そして、そのすべてを囃子が支えています。
ときに怪しく、ときに激しく。「大江山」が会場全体になって楽しめるのは、神楽囃子とわたしたちの鼓動とが、ぴったり重なっているからではないでしょうか。
死闘を演じ切った舞い手さんはもちろんのこと、役者と観客を繋げ続けた囃子方さんにも、大きな大きな拍手を!!
それじゃあ、トイレ行こうかな!!!!!