秋の夜長に勝手に石見神楽を解説しようじゃないか。

島根西部の伝統芸能・石見神楽を妄想と主観で解説してます。ビギナー向け。

【大江山超訳】おおえやま

注:いつも通り、脱線・妄想著しいです。大丈夫な方だけどうぞ。

 

 

 

時は平安中期。魑魅魍魎、悪霊跋扈する京では、ある鬼共の噂が耐えません。その姿は面妖奇怪にして、外法を操り、空を飛ぶ――。狼藉を繰り返す鬼共は、首魁・酒呑童子とその腹心・茨木童子が数多の手下を引き連れた凶悪犯罪組織だったのです。一方、鬼の魔手から京の治安を守るべく白羽の矢が立ったのは、当代最高の武人・源頼光。先の戦いで惜しくもこの2匹を取り逃がしてしまった頼光は渡辺綱坂田金時の精鋭2人を従えて、鬼共が飛び退っていった方角――京の西方・丹波国大江山」へと急ぎ赴くのでした。

 

 

 

鬼の逃げた方角へ向かう旅すがら、頼光は不思議な夢を見ました。

夢枕に一人のおっさんが立っている夢です。

「私は八幡大菩薩というめっちゃ偉い神様じゃ。かの鬼共はすげー倒すのムズイから、激レアアイテムを進ぜよう。」

おっさんはそう言うと、人が飲めば元気100倍になるけど鬼が飲めば猛毒になるという胡散臭い酒と、身バレしてるのに京人丸出しな格好はないよねアホなの?と、山伏のコスプレを授けてくれました。

目が覚めた頼光はこのことを2人に話すと、緊張のあまり妙な幻覚を見たんじゃないのかと生温かい目で見られましたが、たしかにこの格好では即身バレ確実だろうと、3人はありがたく着替えることにしました。

 

山伏の恰好をした一行が酒呑童子の根城はどこかと聞き込みしていると、西の岩山・大江山の一角にあるらしいとの噂がありました。早速、大江山の麓まで来てみれば、たしかに山頂に御殿が見えます。中島みゆきが聞こえてきそうな岩山ですが、「そこに山があるから」と体育会系の頼光はさっさと登っていきました。

 

ようやく酒呑童子の御殿に着いた頃には、日はすでに暮れかかっていました。

 

コンコン。

「すみませーん、今晩泊めてくださーい、外は寒くて眠れないんですー。」

と敏腕セールスマン・頼光が頼むと、

「いや、ちょっと部屋片付けてないんでムリです。」

とサクッと断られてしまいました。

「ちょっ!!早いよ、早すぎだよ!!話くらい聞いてよ!!」

「そういう田舎に泊まろう的なのはお断りしてまして…。」

「わたしは山で修行する山伏です。修行をしていたらいつの間にか日が暮れてしまい、困っています。なにとぞ、一晩の宿をお貸し願えませんでしょうか…。」

「…え?や、あの、逆に人の話聞いてる!?無視なの!?てゆうか山伏なんだから野宿くらいできるよね!?」

「ああ!!ありがとうございます!!外はもう寒くて寒くて!!ありがたやー!!じゃあ早速、おじゃましまーす!」

「ええ、どうぞどうぞ。何もないところでごめんなさいね…って違ーう!!初対面なのにグイグイ来るなー、怪しすぎるよー、何者ー?ホントに山伏―?」

「………ハハハハ、山伏と言ってもニューフェイスなもんでね、最近まで京にいたんですよー。ほら、京の酒もありま」

「どうぞお入りください。」

「「「えっ」」」

あんなに渋っていたじっちゃんばっちゃん、じゃなくて鬼が「京の酒」と聞いただけでいとも簡単に重く閉ざされていた門扉を開けました。

どゆこと?ヤラセなの?と3人はヒソヒソ話をしながら御殿の中に入っていくと、なかなかブルジョワな広間に通されました。

 

そこは鬼がいるわいるわ、わんさかガラの悪そうなDQNたちがせっせと陽気にパーティーピーポーの準備をしているではありませんか。

「うひょー…。思ってたよりやっばいとこに来ちまったよ?どうすんのよ??」

「コレ、バレたらソッコー死にますね。てゆうか生きて帰れますかね?」

「ソッコー死ねたらいいけどね、口で言えないようなことさせられちゃうかもよ?」

3人が早々に死亡フラグを立たせていると、奥から地鳴りような声が響き渡りました。

「おい、京酒を運んできたという山伏はこいつらか。」

いつか取り逃がした、宿敵・酒呑童子茨木童子がそこに立っていました。

「わしは酒に目が無いもんでな。京の酒が一番旨いんだが、最近妙な輩が邪魔してきたお陰で京に寄りつけなくなってしまってなぁ。この酒に免じて、お前らを一晩泊めてやることにしたのよ。」

(((ヤバー!!バレてない?バレてるよね、こいつニヤニヤしてるよ??)))

「はっはっは、久々の旨い酒だ、盛大に宴を開こうぞ。しかしなぁ・・・、お前らの持ってきた京酒、本当にただの酒か?」

(((うっ、うっ、うわぁ~、バレてらぁ~。もう確実にバレてるよォ~。ちゃんと二重テープとかつけまとかカラコンとかしてくるべきだったよぉ~。)))

「ここでは生かすも殺すもわし次第。お前、杯を持て。毒味しろ。この一杯を飲み干せたのなら、楽しい宴会じゃ。そうでなければ…、それはまた一興だ。」

あーあ、死んだ、これ。死んだわ。

毒入ってるっておっさん言ってたしな。適当なコスプレして騙そうなんて悪人のやることだしな。レイヤーさんにも目の敵にされるしな。あんなヤバそうなモン飲むのか…、こりゃもう…、ヤケクソだ。

 

頼光は、一気に杯を干しました。

 

コールもしてないのに、まさかの自主的なイッキに皆が驚いています。酒が毒かどうかなんて関係ありません。この量を一気に飲めば急性アルコール中毒で死にます。お供の二人は固唾を飲んで頼光を見つめました。

「だいじょうぶ、この通り、なにも。美味しゅうございました。」

「…ほう。ならば、わしも一杯。…うむ、なかなかに良い酒じゃ。者ども、酒じゃ!」

うおおおぉぉぉ!!と歓声が上がり、そこかしこから手が伸びてきます。旨い、旨いと飲めや歌えの大宴会。広間がダンスフロアに、オオエヤマ・ディスコになっています。ほろ酔い気分の鬼は3人にも飲め飲めと酒を注ぎ、頼光も楽しそうにそれに応えます。

「…頼光様、この酒、大丈夫なんですか。あれだけの量を飲まれたのに…いきなりゲロったりしませんか?」

「ちょ、おま、前から思ってたけど何気に扱い雑だよね?この通り元気だよ。いきなり酒に強くなったんだよ。」

「はぁ…、まぁ、大丈夫そうならいいか。」

「味方が味方に毒味させてたの!?もう誰も信じらんない!!こうなりゃ、ヤケ酒だ!!しょっぱい!!」

 

3人が注がれた酒を飲み干す頃には、鬼たちは前後不覚、泥酔しきって完全に出来上がってしまいました。

ほど良く酔いの回った酒呑童子は手下たちに呼びかけます。

「そろそろお開きにしようかの、良い宴会じゃった。わしは奥に下がるとしよう。」

しかし、そのとき、

「ちょっと待ったぁ!!酒呑童子!!天皇の勅命によりお前らを退治する!!」

頼光の一声と共に、3人はバッと山伏コスを投げ捨て正体を現しました。

「お、お前たち、あのときのー、あー、誰だっけ?あ、横のお前!!茨木の左腕切ったやつだ!!」

「なんで私のこと知らないんだよ!!ほんといい加減にしろよ!!絶対泣かす!!」

「酒に酔ったとは言え、多勢に無勢。出来るものなら、この首獲ってみるがよい。」

ははははは、と高笑いしながら酒呑童子は奥に下がって行きました。この場をお供の二人に任せ、頼光はすぐさまその後を追います。

 

広間では綱と金時が手下の鬼たちと戦っていましたが、さすがに数が多すぎます。酒の毒で弱っているとはいえ、きりがありません。鬼の首全ては獲れないだろう、だったら、一匹でも多く道連れにしようーーー。

そう決めた二人に、不思議なことが起こります。

一向に息が切れません。疲れもさほど感じません。一振りごとに力が漲るようです。

(なるほど、『善人が飲めば百人力になる』というのは本当のことのようだ。これならば、最後の一匹まで持つやもしれぬ。)

二人は、一匹、また一匹と鬼の首を獲っていきました。

 

その頃、奥の間まで辿り着いた頼光は酒呑童子と剣を交えていました。

序盤こそ押され気味だったものの、敵は明らかに消耗しています。あともう少しで勝てる、そう踏んだ頼光の渾身の太刀を、酒呑童子は寸での所で急所から外しました。

「…そうか。やはりあの酒に何か入っていたか。それならば仕方ない。わが忍術、じゃない、妖術をもって制すまで。」

次の瞬間、頭上から夥しい数の蜘蛛の糸が降リそそぎ、頼光の動きを封じ込めました。それどころか、酒呑童子が口寄せした大蜘蛛が頼光の刀を奪い取っていったのです。蜘蛛の糸から必死に脱出出来たはいいものの、丸腰では戦えません。

大蜘蛛はあざ笑うかのように、手の届かない高さにぶらさがっています。

 

これは、一体どうしたものか。

 

打つ手のない頼光は、まさかの行動にでます。

 

その行動とは、“お祈り”でした。

 

酒の力とアドレナリンのお陰からか、若干ハイテンションになっていた頼光はどっからか根拠のない自信を口寄せし、本日2度目のヤケクソも相まって“お祈り”を捧げることにしたのです。

これには酒呑童子も大蜘蛛もびっくり。普通、思いついても実際やる人なんかいないからです。恥ずかしいから。

けれど、頼光には恥も外聞もありません。ここまで来るためにコスプレしたり、よく分からない何かをイッキしたり、まるで若手芸人のような扱いを受けてきましたから。

自分が将軍で偉い人なんだということを忘れてしまった頼光には、見栄とか色々ありませんでした。

 

すると、大蜘蛛が少しずつ、少しずつ、地上へと引き戻されていくではありませんか。

 

頼光の必死な“お祈り”が天に通じ、奪われた刀ごと大蜘蛛が目前に降りてきたのです。懐かしい剣の柄を握りしめ、8本の脚に囚われた刀身を一気に引き抜くと、そのまま一刀に大蜘蛛を切り伏せました。

「童子、覚悟!!」

体裁を全然気にしない頼光にあっけを取られた酒呑童子は、ここにきて体が上手く動かせないことに気付きます。

「お前、正々堂々、勝負、しろやーーー!!」

「うるせーーー!!こちとら、人間として大事なものは捨てたんじゃーーー!!」

いいのかそれで?と言う疑問は、頼光の怒号とともに振り下ろされた刀に喉笛を掻き切られ、消えていきました。

 

 

ふぅ、と安堵の息をついた頼光のもとに、綱と金時が駆け寄ってきます。

「たった1匹倒すのに何分かかってんすか!?こちとら70匹以上切ったんですよ!!」

「明日、絶対筋肉痛になります。」

こいつらのほうが人間性どっか置いてきてるわと思いながらも、ようやく悲願の宿敵を退治した頼光は、もう2度とはないであろう激戦を名残惜しく思う気持ちを胸に秘め、いざ、鬼の首を持ち帰らんと、京へと戻っていくのでした。

 

 

 

 

また大蜘蛛と戦うことになるなど、知る由もせず。

 

 

 

 

めでたし、めでたし。