【御座】だが、この動画を見てもらった方が早い。
ハロー、どうも、生きてますよ。
なーんもしてないゆるゆるブログなのに、最近は日平均15アクセスくらいありまして、嬉しいかぎりです。「KAGURA姫」ブームも落ち着いてきたし、神楽のシーズンも終わっちゃいましたが、アクセス数を見るとまだまだ神楽に興味を持って頂けていることを実感します。本ブログにお越し下さり、まことにありがとうございます。
さて、わたくしはと言いますと、他のヲタ活にいそしんでおりました。アニメにKぽに年の瀬は忙しいんですよね!!時間がないよ!!てゆうか、金がなくて銀盤の円盤が買えない(悲痛) 。なので、年末にネタ記事出して、年明けにめでたい系の解説を1個書いたらそれでいいやーと思っておりました。
が!!!!!!!!!
超面白い動画を発見したので急きょ書くことにした。これ。↓
リンクはYouTubeなんですけど、やー、発見したとき笑ったね。江津青年会議所さんのチョイスがなんかもう、渋くて!!笑った!!いや、そうなんだけど!!江津と言えば大元神楽なんだけども!!『御座』て!!!!!
郷土愛あふれすぎてて笑いました。アニメ化できそうだね笑。
この『御座』という演目は、大元神楽系の演目を持っている神楽団ならばどこでもある超メジャー級なものでして、実はそんな珍しいものではありません。(大元神楽のさらっとした説明についてはコチラ。→【小ネタ】)
だがね!!舞っておられる市山神友会さん=市山大元神楽っていうのが、スゲー!スゲー!スゲー!とこでしてね!!「神憑り」=「託宣」が実際に起こる神楽として有名なんですよ!!(←興奮気味)
「KAGURA姫」の前日に再放送された「新・日本風土記」の神楽がテーマの回でもNHKのカメラクルーが来てたし、遠方から偉い学者先生が来られたリ、その先生が大元神楽の本をお書きになられたりと、その分野では超超超有名な民俗信仰なんですよ!!
だからね、みんな見た方がいいよ!!!!!!!
…といっても、さっぱりプーでしょう。基本的に、玄人の中の玄人しか知らない神楽なんですよ、大元神楽って。私はここら辺に住んでたことがあるので、運よく知ってるってだけです。大元神楽に関しては、まだまだまだまだ勉強不足です。
でもまぁ、せっかくなので、今できる範囲で解説を。
大元神楽は石見中部の山間部、といっても中国山脈までは行かず、ちょうど山と海の真ん中くらいの地方で受け継がれてきました。
特に、市山神友会の本拠地・江津市桜江町は神楽の見本市みたいなところで、江尾大元神楽は国指定無形文化財なはずだし、谷住郷の八調子は海沿いエリアっぽい派手な感じで、市山大元神楽はさっきも言った通り「神憑り」があって、なんか濃い。濃いいよ。キャラ立ちしすぎよ。
この中でも市山大元神楽は、「新・日本風土記」でも「神憑り」が貴重映像資料として放送されていたように、全国の神楽の中でもとりわけ特別な存在。
芸能として花開いた「KAGURA姫」の芸北神楽や、神事の一環として奉納される出雲神楽はもちろんのこと、同じ地方で受け継がれてきた石見神楽とも一線を画しており、まさに、独特かつ異様。そして何よりも、魅力的。
そんなあやしげ―な、オカルティーな信仰が、人柄のとても良い、あたたかく優しい土地柄で育まれてきたなんて、もうカオスとしか言いようがない。
ここらへんのことはいつか記事にしてまとめるつもりなので、目下勉強中です。それでは、勉強中の身ではありますが、一応、演目の解説もしてみますね。
…って、この動画すでに解説がついてるよぉぉぉぉぉ!!!!!!!!
なんということだ!!スバラシス!!アジュナイス!!
いやー、前回の記事で講釈垂れまくってとても申し訳なかったなぁ、とちょっと落ち込んでまして、なので、まさかこういう解説動画が上がっているだなんて…。クッ…、本当に本当にありがたいよぉぉおぉ…。勉強に!!なります!!!…ヲタクなので!!
ということでね!!
上の動画見ればいいから!!それで解決するから!!!フゥッフッー!!
以上!!『御座』でした!!! ~ 完!!
ってしようかな、と思ったけど動画の解説がちとカタい丁寧なので、ちょっとだけ私なりの解説もしますね。
まずは、桜江町の大元神楽の一番の特徴である「口上」。口上=セリフなわけですが、他の地域や八調子の神楽とは言い方が若干違います。
例えば、分かりましたよ、って意味の「かしこまって そうろう」。
八調子のとこは「かしこまってぇえ~、そぉ~お、ろ~ぉう」みたいに抑揚をつけた言い方をしますが、大元神楽は「かしこまってそぉろ」って言う。早い。タメがない。高校生の「ちーす」「ちわす」くらいタメが一切ない。
これはねー、八調子見慣れてる人は戸惑うっていうか笑っちゃいそうになるよ。え!?セリフ早くね??ってなる。
『天神』の討入りの前の重たいシーン、「わたしも…、お供させて頂きます!」「…、分かった。」みたいな良い場面あるじゃないですか。でも大元神楽だと「俺も行くッスよ」「ッス」って感じになってしまう。サクッとかる~くなってしまう。
なんでこんなにかっぱえびせんなんですか!?と問えば、「そんなに気取った言い方はせんけぇなー、そういうもんだけー」と言われました。…ウッス!!
これがなー、最初はワロエるんですけど、段々クセになってきますからね。それでいい!その調子だ!って気分になってきます。不思議なところだ、桜江町。
じゃあ、やっとこさ演目に入ります。
御座というのは、そのまま茣蓙のことで、神様の座る場所=「御座」に青いイグサで新しく拵えた「茣蓙」を敷きます。ダブルミーニングなのかな。まさか、ダジャレなの…か…?
最初の方の口上は何言ってるか謎ですよね。呪文か…?ってなる。現代語に訳されても謎が止まりません。これは仕方なくてですね、ある程度、古事記などの知識がないとちんぷんかんぷんだと思います。
大元神楽は自然を信仰しているので、実は陰陽五行説にきちんと即した舞を舞っています。陰陽五行説と言うのは、稀代の陰陽師・安倍晴明のシンボルである五芒星をイメージしてもらったらいいかな。東西南北に中央を加えた五方と、木火土金水の五行のバランスを上手く取ることで世の中が安定するという考え方ですね。
なので、最初の呪文は、五方の神が司る五行を説いています。
しかし、この思想は中国からもたらされたものです。中国では超有名な四神がそれぞれ、北方・玄武は水、南方・朱雀は火、東方・青龍は木、西方・白虎は金を、そしてこれに中央・黄竜が土を司っているんですけども、残念ながら、日本には五方を司る神様はいないのです*2。
でも日本はホラ、八百万の神々がましますからね、なんかちょうどよさげな神様を見つけて当てはめたわけですな。火の神様は…火之迦具土命!だから南担当ね!的な。
なので、五行の特性に当てはまる日本の神様を五方の神に置きなおして、更に四方四方のたくさんの神々をお呼びしているシーンなんですねー。
お次は、鈴をシャランラしてますねー。動画はさらっと「鈴は~」って説明されてますけど、ジングルベルしてなくね!?ってなりませんか。『天岩戸』でウズメは金ピカの豪華な鈴をリリーンリーンしてたよね!?って。
その通りで、この鈴を厳密に区別すると「輪鈴(わすず)」というものになります。輪の中に輪を通してあって、その輪が互いに擦れてシャンシャン鳴る、って表現が難しいわ。みなさん家のカギに車のカギとかアクリルストラップとかラバーストラップとかひっつけてますよね。アレ振るとジャカジャカ鳴りますよね。それと同じです。←横暴
んで、ぐるぐる同じことを繰り返すのですが、大元神楽は神様のための神楽なので一つの動作を何回やるのかいうことが厳密に定められています。基本は4回リピートです。
そして!最後の最大の見せ場、ジャンピング・ジャンピングタイム!!(←今つけた)
ネタバレになっちゃいますけども、聞くところによると失敗しないように飛べって言われてるらしいですね。実は。これは別に脅されてるのではなく、失敗する前にちゃんと終わりなさい、ということだそうです。
いかに長くジャンピングし続けるかで興奮度合が違ってくると動画でも解説されてましたよね。だけど、舞手からすれば、失敗しないようにどこでやめるかという見極めが非常に大事らしいのです。なんだか観客と舞手のギャップが面白いなー*3。
こんな感じで『御座』、いかがでしたでしょうか?
今回は相当マニアックな演目をマニアックに語ってきましたが、実は私、市山大元神楽の例大祭をちゃんと生で見たことないんですよ…。お恥ずかしながら…。2回も見に行ったし、目の前で「神憑り」もあったらしんですが、その頃は寝るのが仕事だったので…。
なので!!ちゃんと!!みたい!!
次は辰年と戌年。ということは来年は酉年だから、一年我慢すれば見れる!!楽しみすぎる!!ヒャッホゥーー!!
みなさんもぜひぜひ、カオス不思議なまち・桜江町へ!!
かわいいピンクの橋が「よう、きんさった。」ってお出迎えしてくれますよ。
*1:桜江町はほんともう、すっごい人の良いご老人方がたくさんいる良い所なんだけど、「えんこう伝説」と呼ばれる河童伝説があったり、みなさんご存じのサイコサスペンス昔話「舌切り雀」の発祥の地があったり伝説・伝承に事欠かないオカルティーなとこです。私の祖母は若い時に裏山でツチノコを見たらしい。ツチノコはコロコロ転がって移動するらしい。本当かな。
*2:ここらへんの、陰陽五行説にまつわる宇宙の理を『五神』という演目で実に見事に説いています。登場人物は五行に関するように名づけられていて、末っ子の埴安親王の名が『御座』でも登場していますね。(埴安比売命と埴安毘古命はどちらも土の神様。)埴安親王は五郎の王子とも呼ばれますが、市山大元神楽では黄竜王という名前になっており、他の兄弟も青竜王、赤竜王、白竜王、黒竜王といい、演目名も『五竜王』といいます。独特ですよね。ちなみに、『五神』はセリフで舞を進める「口上舞」なのでセリフが分からないとスゲーつまらないんだなー、これが!!だから!!ちゃんと解説したい、と本気で思ってる!!
*3:ちなみに今回の記事を書くにあたり私の父上(一応、経験者)にインタビューを敢行したところ、ジャンピング・ジャンピングタイムを「わしは50回飛んだんだけぇ!!」と言ってきました。本当かな。
舞え!KAGURA姫みたよ。
NHK広島放送局発地域ドラマ「舞え!KAGURA姫」放送から、早一週間。滝夜叉姫の記事を出してから、早二週間。全然更新しない本ブログ。
安心して下さい、死んでませんよ。
あれだけ人には見ろ見ろ言っといておま、ちょ、見てないんかい!!感想は書かんのんかい!!と思われた方、いたりいなかったりだと思います。ちょっと忙しくてですね、ファンタビ見たり、M-1見たり、ジャイキリの特集見たり、韓国ドラマも見ないといけないし、アニメも溜まってるし…。一日が48時間あればいいのに!!くそう!
ということで、本題です。
「舞え!KAGURA姫」見たよ!あれから3回は見たよ(`・ω・´)!!!
面白かったですよね、実に面白かったですよね!!!ね!!神楽ゴリ押しかなと思いきや、ちゃんと青春したり成長があったりなんかもう、朝ドラにしません???ヒロインの葵わかなさん朝ドラ顔だよね?最近CM出てるよね?てゆうか演技上手だよね??一時間という短すぎる時間だったので「あーー、これからどうなるんだよーー!部長とくっつくのか?それとも百合展開か?どうなんだよーーーおおお!!??」というところで終わってしまいました…。朝ドラは難しいなら、せめて続編希望です。あと、番宣CMで加藤くんが「手打鐘サイコーって言ってもらえました!」ってお話してたらしいんだけど、あんま映ってなくて泣いた!!もっと見たかった!!加藤くんなら手打鐘革命をLet’s Shoutな感じするのにね!!残念なり無念なりぃぃぃ!!
一旦、落ち着こう。
やー、もうホント、ドラマほんと面白かったです。神楽そっちのけで楽しかった!!
広島の神楽の特徴である
「お客さんは神様じゃけぇ。神様が楽しむのが神楽じゃけぇ。」
という一言が大変心に残りました。GHQの検閲から逃れるために発展してきたことを、お恥ずかしながら私は全然知らなかったので、広島の神楽がなぜこんなにも芸術性が高いのか、見やすくて楽しいのか、今更ですが腑に落ちました。伝統を変えざるを得なくて、想像できないほど辛い思いをされたことでしょう。でも、あの時の選択は全然間違ってなんかなかったと、先人たちにお伝えしたい。今や神楽はこんなにも自由で、美しくて、楽しいものになったのだと、神楽を支えてきた人たちに届いたらいいな。
瑞々しい田園風景と、キラキラした青春模様と、燃え上がるような神楽と。
「舞え!KAGURA姫」再放送、はよう!はよう!
あ!あと、KAGURA姫効果で本ブログを覗いて下さってありがとうございます!こうなることを想定して滝夜叉姫の記事を書いたんですが、思った以上にたくさんの方に見て頂けて嬉しい限りです!だから!再放送、早くカモンヌ!!(うちのブログにも再放送で検索する人結構来とるんよ!)
で、もうちょっとベラベラ神楽について話す。
ドラマのエンドロールクレジットの「協力」のとこに上河内神楽団さんのってたね!!イエーーイ!!私は広島の神楽の中ではもうダントツに大ッッ好きでテンションの高まりが止められなくて実際にイエーイ!!!って言った笑。そう、何を隠そう本ブログの「ン゛のぼりくる、のぼりくるゥゥ!!!」は上河内さんのことです。上河内神楽団さんの『紅葉狩』が一番好きだ!!のぼりくる大賞、MVのぼりくる、のぼりくるアワード…数々の賞を(私の中で)受賞された上河内さんがクレジットされて私は泣いたよ…。
ほんとね!一回見てほしい!上河内神楽団さんの『紅葉狩』!!一味違うから!!
あとね、ドラマの「神楽甲子園」のシーンで使われてた「神楽ドーム」、この前行ってきました笑。
ドラマでは「全国の神楽部はここを目指す、神楽の甲子園なんよ」って紹介されてましたが、大人たちも目指してますからね、実は。地方大会を勝ち上がった神楽団が、その年の一番を決める「ひろしま神楽グランプリ」。見てきましたよ!!面白かった!!やっぱ広島の神楽レベル高いっすね!!KAGURA姫のステラも配ってたしね!!超すごすぎて一つ一つ語り尽くしたいとこなんですが誰も興味ないよね!!やめとこ!!
2016の結果を探しても見つからないんですが、Twitter情報によると新舞の部は横田神楽団さんが10連覇達成されたみたいですね!おめでとうございました!!すごすぎ!!
やー、舞の完成度が高いのはさることながら、衣装もきれいだったし、何も言うことないよ…。みんなすごかったよ…。『紅葉狩』かわいかったよ…。
ただちょっと引っ掛かるなーと思ったのは、新舞はさっきも言った通り「お客さんのための神楽」の最終形態なわけなんですが、多少テンプレート化してきてるよなーと思いました。自由に舞うのが新舞の良さだと私は思うんですけど、ストーリーもキャラクターもみんな似通ってて、個性があんまないなーさみしいなーって感じました。
逆に旧舞は今までの伝統を壊そう!って感じがすごくて、「ん?何の演目だこりゃ?」ってなる場面が目立ちました。古い演目はキャラクターがはっきりしてて、それをどのように舞うか、「らしく」舞うかが勝負!という石見神楽脳なので、個性が肉付けされて全然違うものになっているのは、んーー申し訳ないけど馴染めなかったです…。ごめんなさい…。
と、このようにですね、旧舞と新舞で全く逆の現象が起こってるのが興味深い。
自由を表現する新舞は個性を消して、個性を演じる旧舞が自由に演じる。
んー、このまま新舞の影響が旧舞に流れ込んでくるとすれば、おそらく「神楽の均質化」が起こるんじゃないかなーと思ったり。みんな同じようになる可能性も無きにしも非ずだったり。これは芸北だけでなく石見神楽にも十分言えることで、アップデートしようとして全然別ものになってる場合が結構あるんですよね…。私はソフト神楽保守層なので、この傾向はあんまいただけないなと正直、思ってしまいました…。
そこで、やはり神楽の理解を深めるということが大事になってくるわけなんですが、これを舞手にだけ求めるのではなく、見る側にも求めるべきだと思うんです。
歌舞伎は字幕入りで見られるようになりましたよね。そこまでとは言わないけれど、ある一定の理解度までは十分提供可能だと思うんです。ここらへんのことは、十分に商業化されてなかった故の対応の遅さと、こうなることを放っといた神楽の責任だと思いますが、来年には「たたら侍」も公開されますしね、どんどん神楽が広がっていく世の中で、原点回帰じゃないけれど、今一度足元を見つめなおす必要があるのでは?とひしひし感じました。何様目線で語ってすみません…。
こんな理由でブログを作ったわけじゃ全然ないんですけど、ガチでノリとテンションだけで書いてるんですけど、のぼりくるゥ!って叫びながら書いてるんですけど。
神楽への理解を深める一助になればいいなと、強く強く思いました。
秋の夜長ではなくなったけれど。
丁寧に、神楽と向き合って行こうと思った、冬の早朝。
【滝夜叉姫】解説しろ!KAGURAオタ 〈実況解説編〉
神楽についての基本知識と『滝夜叉姫』の前情報はコチラ→【前半】
後半から読んでも全然大丈夫です。
後半は舞を見ながら解説していきます。(話の流れは各神楽団によって多少違います。)
それでは後半・実況解説編、スタート!!
プロローグ
冒頭、今にも消えてしまいそうな女性が一人、歩いてきます。
このきれいなお姫様が五月姫=滝夜叉姫です。
天慶の乱で父・平将門を討たれた五月姫は、父の仇である平貞盛・藤原秀郷を討たんがため都に出ますが、その甲斐なく機会に恵まれません。何としても悲願を果たさねばと復讐に燃える五月姫は、丑の刻参りで有名な貴船の社へと赴きます。
ここらへんの身の上が最初の五月姫の口上=セリフで語られます。「そもそもこの所に進み出でたる者は…」以降に注目。神楽団によっては分かりやすく平将門が討たれるシーン→五月姫登場って舞うところもあるかな。
女の憎念=貴船=丑の刻参りは一つのセットみたいなもので、頭に蝋燭つけた女の人が杉の木に五寸釘打ってカーン、カーン…っていうの見たことないですか?まさにアレです。こわいよー。*1
五月姫はこの貴船の社に七日七晩の願を掛け、ついに最終日・7日目の夜を迎えます。真っ暗な闇の中、明かりは手元を照らす灯だけ。満願成就まであと一歩と、社まで急いで向かう姫の喜びに逸る気持ちと、寂しく切ない気持ちとが交錯して、うーん哀しい。
無事に社へと辿り着いた姫は、貴船の神に祈りを捧げます。
そして段々、段々と姫の様子がおかしくなっていき…とうとう鬼になってしまいます。
この姫から鬼女へ変わるところが見所ポイント。広島は本当に上手なんだよなぁ。
満願成就の末に神通自在の妖術を手に入れた姫は、これより名を滝夜叉姫と改めて、仲間の軍勢を集めるべく下総国・猿島=今の茨城県へと急ぎ立ち帰ります。
序盤(登場人物)
ところ変わって、二人のイケメンが登場。
「幣」というティッシュのついたはたきっぽいものを持ってる方が偉い人・大宅中将光圀(おおやのちゅうじょうみつくに)、お付きの人は山城さんが多いけど色々だなー。光圀はただの武将ではなく陰陽道に精通したスゴ腕のハイブリッド武人。
妖術を使い朝廷転覆を謀る大軍勢を成敗せよ、との勅命を下された二人は、滝夜叉姫のアジト・相馬の城を目指し、一路下総国へと下って行きます。
囃子が鬼囃子に変わると、怪しすぎてガラの悪すぎる二人が登場。お゛りゃあ゛!!
この二人は夜叉丸・蜘蛛丸と言う滝夜叉姫の一の子分。都より討伐隊が出たとの知らせを受けた二人はダッシュで主の元へと帰ります。あ゛いさぁあ!!!!!
彼らは野盗とかそういう感じなので、鬼でもないし人でもない、姫の手下で補佐でもあるっていう本当に難しい役どころなんですよね…。この微妙なニュアンスをどう匂わせるかで本演目の格が決まる、と思ってる!!い゛ぃよいしょぉお゛!!!!!!
姫の御前へと到着した二人は火急の知らせを伝えます。「何条何事にて候」*2は「どした~?」って意味。
この知らせを聞いた姫は驚くどころか「返り討ちにしてやるわ。」と息巻きます。貴船の神から授かった妖術に敵うものなどない、父の仇を討つほんの始まりにすぎないと。
中将光圀を打ち滅ぼすため、姫は手下たちに合戦の準備をせよと命じます。
ほどなくして、決戦の場・相馬の城へと辿り着いた光圀一行は、滝夜叉姫の館へと攻め込みます。
攻め込む前に踊ってんなよ、早く攻め込めよって思うかもしれませんが、ここが割と重要ポイントで、「絶対勝てますように!!」という神様への祈願と、ラスボス戦への道のりと高まりを表現しています。神楽たる所以なので省いてはダメ。
バトルシーン
そして、ラスボス・滝夜叉姫と手下がその姿を現します。
神楽では某死神漫画とおなじで戦う前に「名乗り」を上げなければなりません。(そういや師匠は北広島出身だったような…?)「いざ勝負、勝~負!!」は「レディー、ファイッ!」ってことなんですけど、石見神楽では「いざや立ち合い、勝負を決せん!!」って言う。小まめ知識。
前哨戦・夜叉丸&蜘蛛丸戦は神楽の基本形「2対2」の戦い。
薙刀vs刀の変則的な勝負から、刀vs刀のガチバトルになるとこありますよね。イイ!!神楽って難しそうに見えるんですが、左に回って右に帰るの繰り返しなので意外に単純です。難しいけどね。
途中、全員の衣装が突然バッ!!てなるのは「肩切り」と呼ばれる芸北・石見神楽特有の衣装を着てるから。この仕組みは、まず肩の紐を外し、グルグル回るときの遠心力で裏地を広げています。
何年か前の紅白歌合戦でTM様と奈々様がコラボしたじゃないですか。あのとき奈々様がお召しになっていた衣装がまさに「肩切り」と同じ仕組みになってました。奈々様に遠心力が重要だと教えて差し上げたかった…。
そんなこんなで、割とあっさり手下の二人は殺られてしまいます。そぃやぁあ゛!!
そしてついに、最終ラウンド・滝夜叉姫戦。
石見神楽はタイマンかダブルスが基本なんですけど、芸北は「2対1」が多いですね。こっちの方がオーソドックスなのかなー。*3
突然、滝夜叉姫が一瞬で鬼に変わってビックリしますよね!!これは芸北の十八番の「面の早がえ」といって、広島の得意演目である「鬼女もの」では必ず見せてくれるんですよー!!
このトリックは、面の内側に口でくわえる部分がついた「くわえ面」という特殊な面を使用し、懐など死角に隠した面を一瞬で付ける難易度の高い技です。分かってても見切れないんだよなー。みんなMr.マリックなのかなー。
ここからの戦いは、ほんともう、息を止めて、見てください。
薙刀と妖術を自由自在に操り、鬼と化した姫はたった一人きり戦い抜きます。
が、力及ばず光圀に切り伏せられ、妖術も底を尽き、元の姿へ戻る姫。
もはやこれまでと最期の刻を知った姫は、泣きながら光圀の一太刀を浴びます。
こうして、滝夜叉姫は父の仇を晴らせぬまま、無念の内に息を引き取ったのでした―――。
少し一言
………哀しい。ただただ哀しい。
実を言うと、広島のこういうザ・悲劇チックな演目はあまり好きでないのです。神楽はスカッとするもの!!勧善懲悪!!ザ・王道!!が好きなので。現実は大変だから、せめて神楽はハッピーエンドでいて欲しい。
だから、『滝夜叉姫』は解説しないだろうなぁと思ってました。
この演目を初めて見たのはもう随分前のことですが、あのときの衝撃、というかもやもやした感情は今も鮮明に思い出せます。
暗闇の中、白く、ぼう、と浮かび上がる姫の姿。命を賭して戦ったのにあっけなく散って行った姫の最期。夜神楽では見られない照明の演出が加わった『滝夜叉姫』は、もはや神楽の域を超えて、一つの物語として見入った記憶があります。
ただただ哀しかった。その後の演目が頭に入ってこなかった。
あれから、あまり好んで見ないけど、それでも好奇心に負けて何回か見たけれど。
あの日、あの時のように胸を打つ『滝夜叉姫』に、私はまだ出会えていません。
石見神楽はもちろん大好きなのですが、私は芸北神楽もほんと小っさい頃から見てきたので、広島の舞も大好きです。その芸北神楽がテーマのドラマが全国放送で見れるだなんて、一ファンとしてとってもとっても喜ばしく思います。
神楽の魅力に地元の人以外が気付いて、面白いよね、もっとたくさんの人に面白いって言ってもいい?と認められたような、なぜか誇らしいような気分になりました。
もっと、もっと、神楽の魅力が地元の人にも、いろんな場所にも届いたらいいなと思います。
それでは来る11/30(水)夜10時~「舞え!KAGURA姫」BSプレミアムにて放送です!!
楽しみ!!!
*1:貴船神社のご祭神・高龗神(たかおかみのかみ)は超パワーのある女神さまで龍神さま。平安京の雨乞いはずっとこの場所で行われていました。一方、強力な呪詛神としても有名で、「貴船の丑の刻参り」は数多くの文学作品に影響を与えています。このように、「どうにもならない事をなんとかして欲しい」という望みの最後の砦として「貴船の願掛け」は描かれてきました。一見、恐ろしそうな印象を受けますが、行き場のない想いを聞き入れて下さる、やさしいやさしい神様だと思います。
*2:マネしたい人用。「なんじょう、なにごとにてそうろう」
*3:わたし調べによると、特に新舞に関しては「鬼3対神2」からの子分戦「2対2」→大将戦「1対2」の形が超多い気がします。ドラクエのボス戦みたいな感じで良いですね。まぁ、ドラクエなら先にボス倒す派だけどね。
【滝夜叉姫】解説しろ!KAGURAオタ 〈基礎知識編〉
うちは韓国ドラマ見たさにNHK BSが映るんですが、この前いつものようにBSプレミアム見てたらですね、なんとね、神楽を題材にしたドラマをやるらしい。まじか。その名もなんと「舞え!KAGURA姫」・・・カワイイーーー!!うちのブログもこういうかわゆいタイトルにすりゃ良かった!!マカロンみたいなのにすりゃ良かった!!
それは置いといてですね、すごくないですか!?広島放送局頑張った!!BSと言えど全国放送ですからね~、企画からなんやらかんやら本当に大変だったと思います。神楽ネタ映像にするの大体ポシャるんだよな~。しかも何より一番すごいのは主役の舞手を女の子が演じたってことです!!シビれる!!ようもうた(´;ω;`)!!まだCMをチラッと見ただけなんですが、今からもう楽しみです~。いやっほう!!
ってことで、このまま神楽ブームにあやかりたい本ブログは今回も芸北神楽を解説したいと思います。もしかしたら神楽全然見たことないビギナーさんが読んでくれるかな、と期待して出来るだけ懇切丁寧に書くつもりなので、前の記事と内容が重複するところもありますが、悪しからず。いつもの崩壊テンションはお休みです。
いつものように長くなったので2分割しました。
前半〈基礎知識編〉は、神楽って何?という基本的な説明と『滝夜叉姫』のストーリーにまつわるトリビア、後半〈実況解説編〉は実際に舞を見ながら解説を加えていく仕様になっています。
解説読みながら舞が見たい!!って人は後半へどうぞ。→【後半】
あと、オタクの長たらしい説明はいらぬって人は「舞え!KAGURA姫」のサイトで非っ常~~~に分かりやすく神楽の基礎知識を動画で紹介されていますので、是非是非ご参考になさって下さい!!
ドラマ終わってもこのページ残しといて!!!!!(懇願)
※私の懇願もむなしく、現在(2017/5/20確認)では公式サイト様は無くなっちゃったみたいです…。残念なり無念なり…。
それではレッツ前半・基礎知識編!!
神楽とはなんぞや?
まずは神楽とはなんぞや?から。
神楽って一言で説明するの難しい。元は神事の一環として派生したもので、能や謡曲などの演劇に影響を受けた“昔版ミュージカル”と思って頂けたらイメージしやすいかな。
神楽、と呼ばれるものは実は全国各地にあって、神社があるところには必ず神楽があります。その土地の神様に一年の恵みを感謝し来たる一年の無事と発展を祈るため、神社の舞殿=ステージで神話や伝承をもとにしたミュージカルを夜通しで神様に披露し、その御魂を慰め楽しませることが神楽の起源であり、本来の目的です。
しかし、せっかく一年に一回のスペシャルデーなのに神様おひとりで見るのはさみしくない??みんなで盛り上がれば神様ももっと楽しくない!?と考えたのが、島根県西部・石見地方~広島県北部・芸北地方の神楽。
この地方に伝わる神楽は神様も役者もお客もみーーんな一緒になって楽しもう!!っていう特徴があって、他地域に比べ神様と人間のキョリが近く(そして神憑りをおこす)、また民間主体で伝統を保持しているため、大人も子供もみんな神楽が大好きです。
現在ではショッピングセンターやホールなど神社以外でも神楽を見ることができ、ライブやフェス感覚で楽しむのが主流となりつつあります。
特に「舞え!KAGURA姫」の舞台は広島県北部ということなので、この中でも歌舞伎の影響をモロに受けた「芸北神楽」が盛んに行われている土地です*1。
この「芸北神楽」は島根県西部の「石見神楽」の流れを汲んではいますが、歌舞伎などの流行をガンガン取り入れた「お客さんのための神楽」として発展してきた歴史を持っているので、衣装や演出がとにかく豪華で派手。そして面を付けずに「白塗り」という化粧をして舞うのが一番の特徴です。
また石見神楽は神話ベースの神様物語を勧善懲悪・単純明快に描くバトルものを好みますが、芸北神楽は歌舞伎ベースのヒーロー譚や「姫もの」「鬼女もの」という女形がメインの繊細かつ優美な、ストーリー性を重視した世界観を持つ演目が得意です。
「広島の神楽はショーじゃけぇ」と地元の方が言われる通り、衣装・演出・舞、全てのレベルがどの神楽団も総じて高く、分かりやすいセリフ回しとストーリーは大変見やすいので女性やビギナーさんにはとってもおススメの神楽です。
(神楽の分類についてもう少し詳しく知りたい方はコチラへ。→【小ネタ】)
(芸北神楽の代表演目『紅葉狩』も解説してます。通常運転が気になる方はコチラ。→【紅葉狩】)
と、ここまでは神楽のざっくりした説明と芸北神楽についてのおはなし。
お次は神楽の基礎知識について。
先ほど言った通り、神楽=昔版ミュージカルです。なので構造はいたって単純。
役者は舞手(まいて)、バンドは囃子(はやし)、ダンスは舞、セリフは口上(こうじょう)と言い、ヒーロー=神とヴィラン=鬼の対決を描きます。ザッデーイ、ハズカァーームッ!!
一演目の上演時間については大体40~60分が目安で、この長時間を重さ約20kgの衣装を纏い、ほぼノンストップで踊らなければなりません。
神楽の衣装は金糸銀糸、ベロア生地などがふんだんに使われている超高級品。一着200万~300万円もします。そのうえクリーニングできないので非常に大切に、慎重に取り扱われています。触っちゃダメだよ、触りたくなるけど。
そういや、ドラマのCMで神楽シーン見たとき「こりゃ間違いなく『滝夜叉姫』だ。」と思っていそいそサイトに行ってみるとスチール写真は「ん??『紅葉狩』か??」ってなった。結局やっぱり『滝夜叉姫』だった。
んだけど、このスチール写真よ~く見るとガチの神楽の衣装じゃないよね…多分…。とするとNHKの衣装さんが頑張って作ったってことかな…、え…、おいくら万円??(恐怖)ってなった。さだまさしにお願いされて払った受信料はこういうところに生かされてるのね(恐怖)ってなった。ともあれ良い写真じゃのー。
それではやっと!演目解説して参りましょう。ネタバレしたくない人は見ないでね。
演目についての前情報はいらない!早く舞を解説しろ!という人は後半へ。→【後半】
『滝夜叉姫』とは?
広島の神楽は比較的最近作られた新しい舞=「新舞」と儀式舞のように旧くから伝わる舞=「旧舞」、この2つの括りがあって、『滝夜叉姫』は「新舞」にあたります。石見神楽では「創作神楽」みたいな感じかな。
本演目のあらすじは、
「先の天慶の乱にて討ち滅ぼされた平将門の娘・五月姫が一族の恨みを果たすべく、毎夜丑の刻に貴船神社へ参り、満願叶いとうとう妖術を授かると、滝夜叉姫と名を変え朝廷に反乱を起こす――」
という下剋上ストーリー。
しかし実際のところ、滝夜叉姫という人物はいなかったのだとか。そもそもこんな反乱はなかったのだとか。このお話はフィクションであり実在の人物・団体・名称とは一切関係はありませんなんだとか。
この神楽自体ベースになったお話に決定的なものがなく、「滝夜叉姫伝説」もどこから発生したのか謎なところ。一説には歌舞伎「忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)」・通称「将門」が下敷きになっているらしいけど、うーん、廓もの?なんだよなー、コレ。滝夜叉姫は遊女の設定で、神楽みたいに大軍を引き連れて妖術使いまくりなデスメタル系(※イメージです。)じゃないんだよなー、うーん。
実は『滝夜叉姫』とよーく似たものが石見神楽にありまして…、その名もズバリ『貴船』っていうんだけどね…、そのー、男に捨てられた女が恨みを晴らすべく貴船に丑の刻参りをする、というストーリーなんですが、あまりに内容が陰惨すぎて禁止令が出たらしい。こわ。それからというもの保持演目にされてる社中はほぼ無く、夜神楽とかハッピーな場所で舞うのもどうかということで、滅多な限り見られない幻の演目になったらしい。こわ。かく言う私も全然見たことないです。
ただ、写真と資料によれば大まかなストーリーは同じだし、何より衣装がそっくりなんだよねー…、驚くべきことにねー…。『滝夜叉姫』といえば赤!!って紹介してる人多いし(私は白派)、実際その通りなんだけど、あのね、『貴船』の女の人も真っ赤な襦袢着て頭に蝋燭立ててるんだよね…。*2こわっ。ぞぞっとした。
この2つの演目は能「鉄輪(かなわ)」を元にしたとも言われていて、石見から芸北に『貴船』が伝わり、平氏の本拠地だった安芸の性質と相まって『滝夜叉姫』になったんじゃないかな、と私は勝手に思っています。
ちなみに歌川国芳の有名な浮世絵『相馬の古内裏』は、妖術を授かった滝夜叉姫ががしゃどくろを召喚したシーンを描いているらしい。でっかい骸骨=進撃の巨人っぽいやつ。ぽんぽこの妖怪大集合シーンに出てくるやつ。神楽では召喚しませんけどね。
さて、ゾゾゾッとしたところで後味悪く後半へ続きます。→【後半】